3月のことになりますが、関西へ帰るのが自分の中では決定的となったので、東北にいるうちに回っておけとばかりに北東北を回ってみました。関西に帰ったら、白河の関を超えることはまずないだろうから。

そのメインディッシュの目的地が、青森県の弘前市。
理由はよくわからないのですが、なぜか死ぬまでに一度は行きたかった地の一つで、苦節ン十年、やっと来ることができたかと弘前駅前の地に降り立った時は感慨無量でした。
そんな弘前の町を歩いていると、ある看板が目に入りました。

「水路に雪を投げないで下さい」

冬は道も川も雪で埋まるだろう弘前も、私が訪れた時はすでに3月も末。さすがに雪は、日陰になった部分にわずかに残っていた程度でした。が、上の写真のように残雪が川の流れを塞いでいる姿を見ると、

そりゃあ(橋の上から)投げたらあかんわな〜
と。
でも、なんか違和感がある…確かに「投げ」るのは良くないけど…あれ?
投げる?
北海道では、「捨てる」を「投げる」というのはすっかり全国区の知識になりました。が、昔はほとんど有名ではなく、昭和生まれには懐かしい土曜夜のお楽しみ、「クイズダービー」の問題にも出ていたことをはっきり覚えています。なぜなら、当時小学校高学年だった(はず)私はこれで

北海道では捨てるを”投げる”って言うんや…
と覚えましたから。
しかしながら、知識としては覚えていても、実際に使われるとやはりピンとこないもの。
以前バックパッカーをしていた時、大阪から上海への船で北海道出身の男と知り合いました。確かまだ未成年だったピチピチの若者で、仮名で「まっちゃん」としておきましょう。
彼はなかなかに惚れやすい性格みたいで、たった48時間の船旅なのに中の中国人スタッフに惚れてしまいました。しかし、惚れてしまったものは仕方ない。
向こうは日本語が片言しかわからず、高校中退のまっちゃんは中国語などわかるはずもない。そして、船客で中国語がわかるのは私一人。

お願いです!中国語でラブレターの翻訳して下さい!
そうお願いされたからには、やさしい私は一肌脱いで船上の代筆屋兼翻訳屋をすることに。

お代は、中国にいる間のメシ全部おごりな。
無料でやる選択肢もあるが、無料である以上、手は抜くぞ。
無料で質の悪い翻訳、代価を払って質の高い翻訳、どちらにする?

未成年から金をむしり取るってヤクザっすか!
私が誠心誠意を込めて翻訳したラブレターを彼女に渡したものの、結果は玉砕。
甲板のベンチで落ち込みながら、ありがとうございました…と私にラブレターを返したところで、彼は言いました。

それ、投げといて下さい…

あいよ(と甲板上にポイと投げる)

何やってんすかぁぁ〜!!

いやお前”投げろ”言うたやんけ!(苦笑
とんだ漫才になってしまいましたが、知識として覚えていても、「投げろ」と言われるとそりゃ「投げ」ますわな。
なお、結果的にフラれたので、やさしい私はメシおごりを上海上陸当日と翌日の2日間だけにしてあげました。
これには、ちょっとした後日談があります。
世界を歩き世界を見て世界の広さに驚愕し、学びに目覚めたまっちゃん。大検の資格を取ったか何年後かに地元の大学に通うことになりました。
船を下り中国に上陸した後も2週間ほど行動を共にしたのですが、私が中国を私有地のごとく歩き回り、中国語で中国人と難なくコミュニケーションを取っていたのを見て、すげー!俺ものぶさんみたいになりたい!
…と思ってくれてはおらず、

こいつ(私)であれだけ喋れるんだから、中国語ってなまら楽勝♪
と内心思ったようで、舐めた気分で第二外国語に中国語を選んだそうな。
すると!彼にはキャパオーバーだったのか単位を落としたか落としそうになったらしく、

俺中国語で苦労してるっすよ、どうしてくれるんすか〜!
とメールが来ることに。やさしい私は、いや知らんがな選んだのはお前や、死ぬほど頑張れと返信しておきました。
閑話休題。
岩手でも「投げる」と言うことを、以前遠野へ行った時に知りました。北海道の方言というより、元は北東北の方言なんでしょうね。
ということは、津軽弁でも「投げる」のはず…とサクッとググってみると思わぬ発見が!
看板に書かれている「投げる」には、こんな物語があったようです。
「水路に雪を捨てないで下さい」
そんな看板を弘前市が業者に発注することになりました。これ自体は何の異常もない市民サービスの一つ。
しかし、市の担当者が「投げる」が全国で通用する標準語と思っていたらしく、そのまま「投げる」で発注してしまいました。
その後、「投げる」が地元の方言と気づいて慌てて訂正しようとしたものの、すでに看板は完成済み。「投げる」のまま掲示されることとなったそうです。
ちなみに、第二次発注からは「捨てる」になり、「投げる」看板も順次「捨てる」の方に替えられているそうです。
2022年秋くらいの地元新聞によると、看板の半分は「捨てる」に替えられているそうなので、私が見つけた「投げる」は数年後には幻の看板写真になっているかもしれません。
それにしても、方言の看板って味があっていいと思うんですけどね〜。「投げる」のままでいいんじゃね?私も最初は気づかなかったくらい溶け込んでるから。
しかし、私は見つけられなかったものの、弘前には津軽弁の交通標語があるようです。

ここまで来ると大阪人にはさっぱりわけわかめですが、弘前の人の津軽弁への愛を感じます。
コメント
大阪ことばだと、
「水路に雪をほかさんといてや~」
ですかね(^^)