【閉業しました】別府の旅館すずめに泊まるっ!(大分県別府市)|おいらんだ国酔夢譚 番外編|

旅館すずめ風呂中国・四国・九州の遊郭・赤線跡

何のためにやってんの?となにかと後ろ指をさされる遊郭・赤線探偵にとっての楽しみの一つは、「遊郭に泊まる」ことであります。

お題そのままの本も出ています。

ただ、言っておきたいことが一つあります。「遊郭」とは公的に売春が認められた区域のことで、かつて堀や壁によって物理的に囲まれていたことから、くるわと呼ばれていました。そこにあった建物は、近代以降は「貸座敷」であり、「妓楼」とも言い、また「遊女屋」とも。「遊郭」とは言いません。上記の本も、敢えて「遊郭」とタイトルにした意図があるのだと思いますが、間違った用法が広まっているので、一つこの機会を借りて書いておこうと思います。

閑話休題。

「遊郭に泊まる」とくれば、戦前からの妓楼建築とイメージすると思いますが、戦後の赤線時代の建物にも宿泊できるところも存在します。
今回は、そんな「泊まれる遊郭」の一つをご紹介。

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別府の旅館「すゞめ」

北部旅館街旧仲間通り赤線

別府駅から北の方向へ歩くこと数分、「北部旅館街」と書かれた門を見ることができます。この道はかつては戦前からの私娼窟で、戦後は別府有数の歓楽街(赤線)として温泉客たちでごった返したと言います。

私娼窟や赤線としての歴史は、近日中に書くブログ記事をどうぞ。

今回の主役、「すずめ」はそんな小路(こみち)の一角にあります。

旅館すずめ

「すゞめ」の入り口です。ごく普通の旅館といったところです。元赤線だからといって特異なところは見当たりません。
実は、次の日はお隣の「ちとせ」に宿泊し「はしご」しようとしたのですが、私が訪問した頃は満室で泊まれずでした。

宿のお母さんは昭和13年(1938)生まれの御年80歳以上、物腰が柔らかい方であります。10数年前にご主人が亡くなってからは、お一人で宿を切り盛りされています。電話では少々素っ気ない感じがして、大丈夫かな!?と少し心配になったのですが、ただの杞憂に終わりました。

なお、ここの正式名称は「すゞめ」です。が、「ゞ」を入力するのが面倒くさいのと、CEO対さ…ゲフンゲフンにつき、以下「すずめ」とします。

昭和29年別府赤線地図
(『別府市住宅案内図』昭和29年より)

赤線現役バリバリの頃の住宅地図を紐解くと、この時期にはすでに「すずめ」が存在していたことがわかります。赤線宿(貸席)から旅館へ鞍替えをしても、屋号は変わっていません。

ただし、お母さんがこちらに嫁いできたのは、売春防止法完全施行につき赤線が廃止になった後の昭和38年(1963)のこと。現役の頃のことは知らないとのことでした。まあ、遊郭・赤線のことを聞くと、

私、その時いなかったから…

と、どこかにマニュアルでもあるのかというくらい、判を押した回答が返ってきます。疑っているわけではありませんが、過去に同じ台詞を、全国各地で両手の指の数では足りないくらいの回数聞いたので(笑

それはさておき、「すずめ」が建てられたのはだいぶ前、何度かリフォームはしているものの築年数なら80年くらいは経っているはず…と言っておりました。ちなみに、最終リフォームは昭和50年代だそうな。

お母さんに赤線の話を聞くのもなんですが、私は終戦時の玉音放送やその時の生活、何を食べてたのか、子供としてひもじい感じを覚えなかったかなど、そちらの方の話に興味津々でした。お母さんはお話好きなので、そういう話もお話してくれます。私も、うんうん、それでどうでした?とばかり一時間くらい話し込んでしまいました、それも廊下で立ち話。

さらに、先発していた知の冒険さんが、
「半月後に、遊郭のこと調べている濃い~人が来ますよ!」
と私のことを報告していたらしく、
「関西からお一人来るかと伺ってたけど、ああ、あなたなのね!」
と。はい、”濃い~人”は私です(笑

「すずめ」の中はどうなっているのか

旅館すずめ

中はこうなっています。基本的に「昔のまま」だそうですが、やはり所々老朽化の波が忍び寄っている感が否めません。写真は2階ですが、現在使われている部屋は1~2部屋のみとなっています。

旅館すずめの部屋

しかし、お部屋はこの通り清潔そのもの。広さは4畳ほどで、畳敷きにこたつ(訪問時は5月だったのでちょっと季節外れだったけどw)、丸いお盆にお茶セットと、昔懐かしの旅館の風情を醸し出しています。

が、その昔、ここで女性が客と過ごしていた所でもあったのですな。

旅館すずめ浴衣

なんとオリジナル浴衣もあります。ちゃんと「すずめ」のプリントがしてあります。
うわーオリジナル浴衣や!と私が感激していると、注文した時はかなり良質の綿を使って「ふんばつ」したそうで、それだけに長持ちしていると。

旅館すずめ

昭和世代には懐かしい、鏡台も置かれています。明治の雰囲気すら漂わせていた大正女の祖母が、鏡台の前で髪をといでいた40年ほど前を少し思い出させるものでした。しかし、鏡台もすっかり昔の骨董品になりましたね…。

他にもテレビ・エアコンも完備。時期が時期だったのでエアコンのお世話にならなかったですが、テレビはケーブルテレビ完備。

「こんなところでしかサービスできないから…」

とお母さんは謙遜してらっしゃいましたが、とんでもございません。せっかくの温泉郷、テレビを見ながらのんびり過ごすのも、また贅沢な時間の使い方なり。私は1日中別府の町を徘徊し、図書館の閲覧室とコピー機の間を走り回っていたので、それが実現できなかったのでありますが…。今度は遊郭・赤線抜きで参じます。

ここまでなら、良くも悪くもふつうの宿です。しかし、「ずすめ」が遊里史クラスタでは知らぬ者はいないほど有名なのと、私がわざわざ関西から、四国を車で縦断してまで別府までやって来た理由は、それではありません。

「ずすめ」名物、お風呂!

旅館すずめ風呂

「ずすめ」にはお風呂があります。そりゃ旅館やからあるやろ(笑)でしょうが、「すずめ」のお風呂はただのお風呂ではありません。
やけに凝ったガラス、ステンドグラスではなく「風」なステッカーです、がなんだか色欲をそそりそうな扉を開けるとそこは…

旅館すずめ風呂

タイル・タイル・タイル・一面タイル!!豆タイルの小宇宙コスモが弾けた異次元空間。写真でしか見たことがなかった「赤線」が、ここに残っていました。
それも艶めかしすぎるくらいのピンク!!

お母さんいわく、

「私が嫁いだ頃と全く変わっていない。赤線時代のままの姿」

というこのお風呂。「すゞめ」の名物であり、これ見たさに全国から物好きが別府まで拝謁に来るほどの希少価値があるものです。かく言う私もその一人なのは、もはや書くまでもあるまい。

旅館すずめ10

こんなものを目の前で見せつけられたら、温泉なんて吹き飛んでしまいます。九州まで車を飛ばして見に来た甲斐があったというものです。

「温泉」で思い出しましたが、「すずめ」のお風呂は温泉ではありません。なんで温泉敷かないんすか?と聞いたところ、あれも権利うんぬんがあるよう。地面を掘れば温泉が出てくる温泉郷といっても、誰でも敷けるものではないと。お母さんの話を聞くと、その利権もけっこうドロドロしたもので…ああ人間ってやだ(笑

しかし、私はこれを見られただけでお腹いっぱいです。温泉?いいえ、知らない子ですね。

おわりに

結局、1日置いて通算2泊することになったのですが、気になる料金は一泊¥2500円。別府は宿賃が比較的安めなのですが、それも湯治客のため。素泊まり要自炊の湯治宿の相場も、3泊1万円が相場とのこと。「ずすめ」も例外ではなく、長い人は半月以上連泊するお客さんもいるとのこと。それは「泊」ではなく、「短期滞在」になってしまうのではないでしょうか。私も一度はやってみたい。
それを考えても、「すずめ」はお値段的にも非常に安い方に分類されます。これから毎年、ここで3泊くらい泊まって湯治しようかしらん?と思ってしまうほど、立地条件も良し、お母さんの人柄も良し。遊郭・赤線抜きでも、胸を張っておすすめできる宿であります。

温泉じゃない?そんなもの別府市内に掃いて捨てるほどある公共浴場に、ワンコイン(100円)で入ればいいのさ。それも別府の歩き方、「ずすめ」に泊まったら目も身体も一粒で二度おいしく味わえます。

旅館「すゞめ」について
住所大分県別府市駅前本町8−6
電話番号0977-21-1504
駐車場あり(ただし事前に予約時にお知らせしておくこと)

おまけ-別府名物「だんご汁」

せっかく別府まで来たからには、何か名物というか、郷土料理を一つ堪能したいのが旅情というもの。

「すずめ」だけでも大大大満足なのですが、たまにはふつうの観光客にもなりたい。そうなると腹が減ってはいくさはできぬ。お母さんに何かおすすめはありますか?と聞いてみました。

返ってきた答えは「だんご汁」

だんご汁はどこでも食べられるけれど、化学調味料を使っておらず味は折り紙付きというお店を一軒、紹介してもらいました。

別府駅の横…というかほぼ構内ではないかと思われるところに、「みらく」というお店があります。

別府名物だんご汁

こちらがだんご汁です。「だんご」と言ってもお団子が入っているわけではなく、小麦粉で作った平たい麺のこと。それを味噌または醤油ベースの汁に、肉や野菜と一緒に入れた、大分県のご当地フードです。
大分県の給食にも出るそうで、県民にとっては子供から舌で覚えている庶民食といったところです。

だんご汁

麺というより「小麦粉を平らに引き延ばしたきしめん状のもの」と表現した方が適切です。Wikipedia先生には「麺類ではあるがすいとんに近い食べ物である」と書かれていますが、確かにご飯の代わりに麺類が入った雑炊のような感覚です。定食なのでご飯が別についていますが。
私は食べたことがないので比較はできませんが、山梨県の「ほうとう」に似てると書いている人もいます。

なお、気になるお値段は…忘れました。1000円出してお釣りがきたことは覚えているのですが…お店に直接お問い合わせを。

「みらく」
住所大分県別府市駅前町11-7
電話番号0977-21-0668
営業時間・定休日10:00~19:00 (休みは要確認)

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