玉栄丸爆発事故-境港を襲った最大の戦災

歴史エッセイ
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意外すぎた事故の原因

事故から62年が経過した平成19年(2007)、ひょんとしたことから事故の全容が判明しました。結論から言ってしまえば、事故の原因、なんとたばこのポイ捨てだったのです。

思わず

はぁ???

と唖然となってしまいますが、真相はそれだけではありません。犯人は一般人ではなく兵隊でした。

事件直後、憲兵がある上等兵を見つけました。オドオドしていて明らかに挙動不審だったため、直感で職務質問をしたところ、あっさりと自白。

彼によると、

「陸揚げの途中で休憩があった。煙草に火を付けて一服吸い、無意識に吸い殻を投げ捨てた。
ところが、そこらにこぼれていた火薬に引火し、パッ!パッ!と火が走り出した。数秒の後、いきなりドカン!💥ドカン!💥と大爆音。
その時、大爆風で前に倒され、背中に火傷を負った。

当時の供述調書より

真摯に反省していた様子だったといいます。

しかし、唖然となってしまうのはむしろその後の対応。
軍の対応は、ずばりもみ消し。死者を100人以上も出した大事故の原因が、身内のタバコの不始末(ポイ捨て)だなんて、陸軍の権威とメンツが丸つぶれです。
また、玉栄丸が危険物である火薬を積んでいたことは、ポイ捨てした上等兵もわかっていました。なのに、火気厳禁が行き届いていなかった管理不行届で管理者の責任にもかかわります。

結果、この事故は軍隊の強権で「なかったこと」になってしまいました。当然、「なかったこと」にはできなかったのですが…。

しかし、この事故の最大の闇はこれから。

前述のとおり、事故の全貌は下手人が発覚した時点ですぐにわかっていました。が、これが明るみになったのは、昭和を過ぎて平成に、20世紀が過ぎ21世紀になってから。62年間、わかっていながらひた隠しにしたのです。

昭和史には気をつけろ!

ずっと隠してたのかよ!と驚くかもしれませんが、実は昭和史を調べていると、こんなことはよくあります。
今まで黙秘を貫いていた人が、実は…と遺言のように本当のことを語り出したり、遺品を整理していたら「真実」が書かれていた手記が出てくることも。
また、終戦時の内閣首席秘書官(現在の内閣官房長官)だった迫水久常のように、終戦の秘話をすべてテープに遺しておきながら、

迫水
迫水

関係者に悪いから…

と自分や関係者の存命中は絶対に公表するなと釘を刺し、そのまま忘れられ2010年代に発掘されたものもあります。

特に軍人は、当事者の証言ほど鵜呑みにするな…というのが、歴史の勉強の上での鉄則です。正直、人を見た方が良い。

これに関しては、評判が悪かった陸軍より、むしろ海軍の方がたちが悪かったりします。
海軍士官の世界は、本能的に身内をかばい、一致団結して悪いところを隠蔽する体質があります。身内どうしの身内批判や戦争を起こした反省の議論はあるものの、海軍に関係ない第三者が海軍を批判するのは許せないし認めない。

元軍人が第三者に対し、欠陥や欠点を語ることもほとんどありません。いわゆる「海軍善玉説」がそれです。高木惣吉元少将は、我々市井の人間に海軍の良いところと同時に恥部も平等に、是々非々で暴露した人ですが、それこそ「矢があらゆる方向から飛んできた」結果、「四面楚歌になった」となったといいます。

歴史探偵こと半藤一利氏が文藝春秋の歴史担当だった頃、元々氏が駆逐艦『夕立』に乗ったことがある軍艦マニアという縁もあって、海軍側から見た昭和史を仕事半分のライフワークとして相当数の元海軍士官に会い、話を聞きに行きました。昭和史のオーラルヒストリーの大家ですね。

ところが、名のある提督たちは全員完全黙秘。同じ海軍仲間たちからの紹介なので、門前払いなど取材拒否はしないけれども、玄関や居間に上げておいて本人は貝に。事実上の証言拒否でした。

小沢治三郎中将、現在でも日米両国での評価が高い名将、のところへも何度も駆けつけたものの、玄関の前で黙ったまま何も語らず。業を煮やした半藤氏はついに、

閣下!私がこうして何度も通っているのに、何も語らないとは何事ですか!大艦隊を率いた提督がなんて器の小さい!💢

とぶち切れたエピソードがあります。

小沢も悪いと思ったのか、一つだけ質問に答えると。

半藤氏はレイテ沖海戦のことを聞いたそうですが、それに対し、

レイテで頑張ったのは…西村君だけだよ。あとは落第だ

と一言。その後は、いつもの貝に戻ったそうです。

しかしながら、小沢は身内に対してもノーコメントを貫いただけまだマシでした。

東条英機内閣で海軍大臣を務めた嶋田繁太郎大将1も、部外者に対しては完全黙秘でした。
が、身内に対してはというと、それはしゃべるしゃべる(笑
それが21世紀になって「解禁」されたのですが、それを見た半藤氏は、こいつ俺の前では全然しゃべらなかったのに、ここ(軍人どうしのインタビュー)ではベラベラしゃべりやがって!とかなり怒っていました。
しかし、ベラベラと口が軽いおかげさまで、研究者にとっては貴重な「本音」の連続に神社でも建てたいくらい感謝に堪えません(笑

最近、艦これやWorld of Worship、アズールレーンなどのゲームの影響で、旧帝國海軍に興味を持つ人が多くなりました。
きっかけはゲームとは言え、歴史に興味を持つ良い流れだとは思います。ただ、軍艦から入ったミリオタが戦史を調べたりすると、こういう海軍士官の悪い性質を知らず、リアルタイムに生きていた人の言うことだからと鵜呑みにしてしまいがちです。

ただ、何もかも疑ったりするのも疲れるので、「海軍軍人の身内どうしの発言や議論」2「見なし身内である元海軍記者に語っている話」3は、かなり本音で語っているとだけ言っておきます。
また、数いる提督連のうち、高木惣吉、井上成美、山梨勝之進の3人の発言は、外部内部にかかわらず無条件で信じてOKと、戦後に海上幕僚長を経験した中山定義元中佐の太鼓判があります。逆に言えば、この3人以外は無条件で信じるなよ、絶対裏を取れよということですけどね…。
下士官・兵の発言は本音の部分が多いものの、記憶違いがけっこう多い。あとは、大量の資料・書物を乱読してカンを養うしかありません。

陸軍の異端児石原莞爾中将は、海軍や世論の陸軍批判に対し、

「陸軍が強盗なら、海軍は巾着切り(スリ)じゃねーか!」

と言ったそうですが4、昭和史や海軍史を調べていくと石原のこの発言、まんざらでもない。

しかし、傷は身内だけで隠したいという一方、事実はどこかで残しておかないといけない。その葛藤は彼らの中にあったものと思います。だからこそ、本音が時代を経て、21世紀になり当事者が全員あの世に逝った時、新しい資料が出てくるということがあるのです。

陸上自衛隊は旧軍の徹底的な否定から始まっています。「帝国海軍の伝統を受け継いでいる」と公言している海上自衛隊とは逆です。
否定はイコール反面教師にしているということですが、何事もなかったとは言え、ニュースとして流れるということは、いちおう「歴史は繰り返さない」とプラスに解釈するとしましょう。

他にもこんな記事はいかがですか?

  1. 戦後、東京裁判にて終身刑。のち釈放。
  2. 『海軍反省会』や『小柳資料』など。
  3. 新名丈夫や杉本健などの著書
  4. ペテン師と言った説もあり。
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