日本語のどこが難しいのかー外国人から見る日本語

日本語難しい外国人 ブログエッセイ
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難しい理由④ーオノマトペが多い

「オノマトペ」とは、擬音語と擬態語(擬声語)のことを言い、元々はフランス語の“onomatopee”から来ています。
日本語のオノマトペの数は、確か日常会話で最低限覚えるべき表現だけでも600以上。学術的には5,000語以上だそうです。
これは、第二位の中国語(300ちょっと)のダブルスコアとぶっちぎりで、英語でだいたい170前後です。中国語も、勉強してみるとオノマトペ表現の豊富さに意外さを感じますが、それでも日本語の半分です。

ところで…

「なんで今までこんなアニメがなかったんだ…」

と何百本ものアニメを見てきたオタクが驚き癒しとなっている『SPYxFAMILY』。
日本だけではなく世界中に広まったヒットの立役者が、主要登場人物(ってかほぼ主人公)の「自称6歳」のアーニャ。

彼女の魅力は、父性・母性本能を刺激するレベルのかわいらしさと、「顔芸」と呼ばれる(コラ画像のネタになるような)顔の表情の豊富さもありますが、もう一つが豊富なオノマトペ表現。
彼女が発する

「わくわく!」

はすでに世界中のオタクが”WAKU WAKU”と使い始めています。ついにはフィリピン政府某機関の公式サイトまで使い始め、それが世界的にバズるこの世の中よ。我々には別に何の変哲もない「わくわく」ですが、実は英語には適当な表現がありません。

実際、『SPYxFAMILY』のアニメではどう英訳されているのかというと、字幕では“I’m so excited” 、吹き替えでは“so good”になっています。
オノマトペは感情直結表現なので、”excited”という「説明文」にするとアーニャの個性が台無しになるのですが、これはどうしようもない。適当なオノマトペがないのだからそう訳すしかないのです。

外国のオタクもそう感じているらしく、アニメはいつも吹き替え版を見るという人も、これだけは字幕で見る、つまり『生WAKU WAKU』を聞きたいという人が多いようです1

また、アーニャが「わくわく」の次くらいに発する、『SPYxFAMILY』ではおなじみのオノマトペに、
「がーん」
があります。日本人には意味がわかりますが、英語では“I’m shock(ed)”となっています。これも英語にはない日本語のオノマトペなので、英語字幕は「私はショックを受けました」という「説明文」になっています。

数あるオノマトペの中でも究極の奥義と言えるものは、

「シ~~ン」

これ、我々には意味がわかりますよね。
音がないのを表現する擬音語…外国人は確実にテンパります。神様私はもう日本語が理解できませんと、跪いて祈り始めます
パックンでお馴染みのパトリック・ハーラン氏が、今までいちばんビビった日本語がこれだそうで、

「音がないのに音がある!?それこそWhy Japanese language!?ですよ」

ハーバード大学の頭脳をもってしてもお手上げだそうです。

英語どころか、世界の言語にそんな言葉が存在しないので、「シ~ン」の翻訳は不可能。マンガでも敢えて訳さず(ってか訳せない)、「シ~ン」のままです。

漫画内で字であらわされる効果音もオノマトペの一種ですが、これも英語では翻訳不可能なのか、たいてい日本語のままだそうな。

難しい理由⑤ー方言が多い

日本語には各地に方言が数多く残っています。しかも、最近は方言ブームか回帰の流れに傾いているようです。
しかし、明治時代からつい最近まで、方言は「排除されるべきもの」として標準語に置き換えられる歴史を歩んできました。
特に東北と沖縄方言は集中的に「弾圧」され、沖縄では学校で方言を話すと、
「私は方言をしゃべりました」
という立て札を、学校にいる間首からぶら下げないといけなかったそうな。

こういう話は、戦後の台湾でも聞いたことがあります。
蒋介石が生きていた国民党時代の学校で台湾語を話すと、「私は台湾語を話した悪い子です」と書かれたプラカードを首からぶら下げられ、かつ罰金でした。
台湾に住んでいた20年前、

筆者
筆者

こんな話を日本で聞いたことあるんけど、本当?

と中文の老師に聞くと、

うん、本当よ!


本人経験の具体例まで聞いたので、本当でしょう。

しかし、同じことが沖縄でもあったことには、私もビックリでした。
方言も形がない独自文化の一つ。形がないだけに、保存し大切にしないと後々、しまったとほぞを噛むことになります。

それはさておき、よくある外国語の質問にこういうものがあります。

外国語にも方言ってあるの?

そりゃあります。
中国語も、東京に当てはめれば渋谷・原宿・新宿・高田馬場・池袋にそれぞれ方言があり、お互いの言葉が通じないほど方言差が激しい世界です。
アメリカやカナダ英語も、イギリス目線なら「英語の北米方言」。
オランダ語も、「ドイツ北部低地方言」とドイツ語界の関西弁のような扱いをする研究者もいます。

シーボルトはドイツ人

江戸時代に日本に来たシーボルトは、実はオランダ人ではなくドイツ人。
日本に行きたくてどうにか日本へ行ける手段を考えた結果、オランダ人に化けて日本に来たのですが、長崎通辞(世襲制の通訳)が彼のオランダ語を聞いて、

通訳
通訳

あんたのオランダ語、アクセントおかしくね?

海外留学や滞在経験なしで外国人の「訛り」に気づくのはかなりハイレベルの語学力の持ち主ですが、ドイツ人だとバレそうになったシーボルトさん、とっさに

シーボルト
シーボルト

いやあ、僕のは「オランダ山地方言」なんだ(汗

ウソをついてその場をやり過ごした話があります。

これには

オランダに山なんかねーよ(笑

というオチがついているのですが、おそらくこのウソはシーボルトがオランダ語を「ドイツ語の亜種」とみなしていたか、そういう学説があるという知識を持っていた出任せだったのでしょう。

ロシアは、あの国土の割には方言差がほとんどありません。
が、それでもあるっちゃあります。日本人がイメージする有名なロシア料理に「ボルシチ」がありますが1、これ実はサンクトペテルブルク方言。
明治時代に伝わった時はロシア帝国、ロシア帝国の首都はペトログラード=サンクトペテルブルクで、サンクト方言が当時の標準語扱いだったのです。

ちなみに、現在のロシア語(モスクワ標準語?)で「ボルシチ」は「ボルシュ(Борщ)」です。

日本の方言のバラエティの豊かさに関しては、世界レベルで見ても相当豊かな方だと私は思っています。
「まるで外国語」の沖縄方言も、元をたどってみると上代日本語(奈良時代以前の日本語)の生き残り、言語学的にはウチナーグチ(沖縄弁)の方がむしろ奈良時代、いや見方によっては古墳時代か弥生時代くらいの日本語の因子が残っているのです。

それが逆に、外国人をして難しいと思わせる要因かなとも思います。
たとえば、日本語が話せる外国人が、日本語で話かけてきたとしましょう。外国人慣れしている人ならば、相手の日本語の能力に合わせて標準語にしたり、簡単な言葉になおしたりと調節できます。

ブログは標準語で書いているので全く片鱗がないですが、筆者は大阪出身で普段はコテコテ大阪弁使い。

筆者
筆者

大阪弁は自分のアイデンティティの一つ。
何で無理して標準語しゃべらんとあかんねんアホちゃうんか

という大阪弁テロリストの私も、外国人にはまず標準語で話します。
しかし、慣れていないとついつい方言丸出しに話してしまい、リスニング力がついていない外国人は、「ニホンゴハムズカシイデスネ」と当惑してしまうかもしれません。

しかも、日本語の方言は標準語とは近そうで遠い、いや遠そうで近いというビミョーな立ち位置が、余計「ムズカシイ」とされてしまう原因かもしれません。
方言どうしが外国語とみなして良いほど離れている中国語の方言2なら、「別言語」として別の脳で処理できますし。

ちなみに、国立大阪大学の留学生日本語クラスには、選択科目で「関西弁講座」があり、漫才のリスニングもあるなどかなり本格的だそうです。

NEXT:逆に簡単なところは?

  1. 字幕で見るのは他にも、アーニャの英語版の声優の声が合ってないということもあるそうな。
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コメント

  1. しばいぬひなこ より:

    日本語は~の記事、とても面白かったです。
    国によって言語の難しさの基準が違うのですね
    特に音読みの種類の違いについては、長年漠然と抱いていた霧が晴れいくようでした。

    ブログ主を知ったのは、twitterがきっかけです。
    古い建物を見るのが好きで、偶然お見かけして以来、投稿を楽しみにしております。
    歴史的建築物と言われるものには、必ずしも良い意味ばかりではないと知り、驚きました。

    女性として遊郭を見ると、どうしても哀しい歴史に思いを巡らせてしまいます。
    その時代に生まれていたら、自分もこの中にいたかもしれない…と。
    この中にいたとしたら、それでもこの建物を美しいと思えただろうか…と。

    歴史を振り返ると、その時代の常識ってある意味で怖いと思いました。

  2. 槻 (Keyaki) より:

    最高に面白くて、爆笑しながら読みましたw
    まさに共感の嵐です。

    外の世界の言語を覚えれば覚えるほど、如何に日本語が異次元なのかを痛感しますね。日本語を一から勉強している方々には頭が上がりません。

    そういえば、とある海外の友人からこのようなコメントをいただきました:
    『ほとんどの日本人の絵が上手いのは、毎日絵(漢字)を描いてるからだろ』
    と聞いて、まさにそうだなと。書き順なんて物があると知ったら、発狂間違いなしでしょうw

    擬音語に関しては、日常的に使われているものは勿論、新たなオノマトペを作りたければ作れるという無法地帯(しかも読み手は理解できる)。
    これには「なぜ自分は理解できるのか?」と疑問に思うくらいです。

    方言も勿論すごいのですが、ネット用語や若年層用語も目まぐるしい速度で変化していきますよね。特にネット用語に関しては、自分も見てきたので身に沁みます。
    20〜15年前は『2ch用語』『ギャル語』などが流行っていましたが、今となってはその大半は死語と化しました。
    例えば、【藁】は少し前の 【笑】であり、現在の【草】です。現在のネットで藁なんて使えば、生きた化石として保護されてしまうでしょう。
    たった数年前まで溢れかえっていた「ワロタwwwwww」ですが、今となってはネット老人の発言だと即バレしてしまいます。
    【JK】は【常考】の略、「常識的に考えて」の略でした。しかし、それは次第に【女子高生】へと意味を変えていきました。
    【希ガス】【微レ存】【(ry】【KONAMI】……
    こう見ると、自分は社会に置いていかれているんだなと、少し悲しくなってしまいますけどねw

    やはり言語は最高に面白いですね!書いていてすごい楽しかったです。

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