カタカナ語は基本的には外国から来た言葉。これを「外来語」と言います。
が、その逆って何というかわかるでしょうか。
「海外に出て行き現地の言葉として定着している日本語」。それを、「外行語」と言います。「がいぎょうご」なのか「がいこうご」なのか、この記事ではどちらでもいいということにしておきます。どっちで入力しても変換できないし。
本日は、そんな「海を渡った日本語」の世界を。
英語になった日本語
Everybody Samurai Sushi Geisha, beautiful Fujiyama…
米米CLUBの”Funk Fujiyama”という歌のサビですが、昔のガイジン様が思いつく日本語はこんな感じです。
他にも、古くから英語として定着している日本語に、”tsunami”(津波)があります。古来から津波で壊滅させられている日本語ではマイナス因子を持つ単語ですが、英語では力強さをあらわすこともあるのか、スポーツチーム名として使われていることもあります。
しかし、最近は日本のサブカル文化が世界中に広がったため、けっこういろんな日本語が英語化されています。「弁当」も”Japanese style lunch box”なんてくどくど言わなくても”bento”の一言でいいし、エロアニメは”hentai”の一語で済みます(笑)
英語として日常で使われている日本語なんか挙げているとキリがないので、「オックスフォード英英現代辞典(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)」に掲載されている日本語を。
Oxford辞典はいちおう世界一権威のある英語辞書とされており、ここに掲載されたら、

おめでとう!あなたは立派な英語の仲間入りです!
ということ。そんなOxford辞典には、どんな日本語が載っているのでしょうか。
Origami
Haiku
Bonsai
Hiragana
Katakana
etc…
まあ無難な日本語ですね。
しかし、その中には「こんなのも『英語』なの!?」というものもあったりします。
Walkman(ウォークマン)
SONYのウォークマンのことです。Walkmanは当時の会長だった盛田昭夫が思いついた和製英語なのですが、ウォークマンのイギリス販売の際、現地の社員は猛反対したとか。
仕方なく別の名前で販売したものの、ミュージシャンが積極的に”Walkman”を使い始め、沈黙の応援団となりました。現在は、オーストラリアを除いてWalkmanに統一されています1。
そんなWalkmanは、本場の英語にバージョンアップした数少ない和製英語です。
kawaii (かわいい)
「かわいい」です。ちゃんと形容詞として載っています。
日本サブカル、特に漫画やアニメが世界中で人気となり世界中の人が使い始めたのが、この”kawaii”
英語にも”cute” “pretty”という「かわいい」があるのですが、「かわいい」より使用範囲が狭い。
人にもモノにも何でも使え、さらに意味も中立的な”kawaii”は、非常に使い勝手がよろしいのです。特に女の子の間で大人気となりました。
正直、”kawaii”はオタクの間やネットスラングとしての価値しかない。私はそう思っていました。が、オックスフォード英英辞典に載っているということは、いわば地下アイドルが一躍メジャーデビューという感じですね。
また、まだオックスフォードには掲載されていませんが、”sugoi”(すごい)もcoolと同じ意味でけっこう使われています。
kanji(漢字)
漢字は、もともと“Chinese character”です。おそらく学校で習う「漢字」の英訳はこれのはず。
しかし、やはり日本のサブカルの影響と、”kanji”の方が画数が少ない(日本風に言えば)のもあるのか、我々の想像以上に”kanji”だらけです。また、「日本語で使われる漢字」をkanjiと表現しているニュアンスもあります。
これも最初はネットだけの現象かと思ったのですが、テレビの外国人観光客の会話を聞いていても、”kanji”ですね。
honcho(班長)
ホンチョー?そんな日本語あったっけ?
と日本人だからこそ混乱してしまいますが、実は少し綴りが変わっている日本語起源の言葉です。
これ…「班長」なんです。
基本的に”head honcho”という形で用いて、「現場リーダー」や「その部署のトップ(だからhead)」という意味で、意外なほどよく使われています。感覚的には、まさに「班長」。
アメリカ起源のアメリカ英語ですが、自他ともに認める英語の世界一の権威Oxford英語辞典やケンブリッジ大学編纂辞書、そしてアメリカ英語の権威Webstarにもちゃんと掲載されています。honchoと綴るものの、アメリカ英語では日本語のまま「ハンチョー」と発音します(英国では綴りのまま)。
起源は、太平洋戦争時代に日本陸軍の捕虜から聞いた「班長」からという説2と、アメリカ日系人社会から説、終戦後の日本進駐軍GIが使い始めた説3など、諸説ありますが、初出は1947年(昭和22年)であることは確かだそうです。
ところで。

漫画界の大作、『進撃の巨人』の登場人物の中でも主人公をしのぐほどの人気があるのが、「人類最強の兵士」ことリヴァイ。
彼の役職は「兵士長」ですが、一方でリヴァイ班のトップの「班長」でもありました。アニメの英語字幕では、「兵士長」「班長」どちらも”Captain”となっています。翻訳としては間違いではないものの、リヴァイの役職的に”honcho”ってビンゴな単語なのだから、遊び心も含めて”(head) honcho”が適訳じゃなかったのかな〜!?というのが、個人的な所感であります。
cosplay(コスプレ)
コスプレは”Costume play”の略であり和製英語でもありますが、これもオックスフォード辞典に掲載されているオタク力の恐ろしさ。世界中の英語を監視してる(らしい)オックスフォード大学英語協会(?)が認めたのだから、コスプレってもはやバカにできません。ちなみに、”cosplay”は名詞でもあり、動詞でもあります。
ここで、一般人がまず使うことがなさそうな英語のイディオムを。
cosplay as A from B
で、「B(漫画・アニメ名)のA(役)のコスプレをする」という意味になります。
例文)I’m cosplaying as Goku from Dragonball
(「私はドラゴンボールの孫悟空のコスプレをしています」)
見た目でわかるっちゅーねん(笑
フランス語になった日本語
フランスは、ある意味世界で最初に日本文化を受け入れた国であります。
幕末・明治のジャポニズムからアニメまで、フランスから世界へ拡散した日本文化は多く、今でも知る人ぞ知るJapan Expoに代表されるように、欧州への日本文化発信基地となっています。あの

俺たちの文化は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
と多文化をバカにしまくりの「西の中華」フランスが、異国(日本)のサブカルをすんなり受け入れたということは、実はすごいことなんだぞ!とイタリア人に言われたことがあります。

あの傲慢不遜フランス人が絶賛してる日本文化って何なの?
イタリア人が漫画やアニメに足を突っ込んだ理由は、まとめるとこんな感じなんだそう。世界での日本文化、特に漫画アニメの広がりは、フランス様のおかげと言っても良いでしょう。
「外行語」としては英語とけっこうかぶるところがありますが、あるサイトに掲載されていた「仏仏辞典に載っていた日本語」を少し拝借します。
この仏仏辞典の良いところは、はじめて文献に現れた時期も書かれていることですが、最初にフランス語に出てきた日本語は”obi”(帯)。
1551年の文献に出てくるそうですが、フランシスコ・ザビエルが日本に上陸しキリスト教を伝えたのが1550年です。
日本史ではザビエルが「日本と接触した最初の西洋人」となっていますが、”obi”が1551年に文献に出ているということは、それ以前に西洋人との接触があった可能性は十分にあります。
そこまで調べる気はありませんが、そう考えると歴史が楽しくなってきませんか。歴史は「想像の科学」なのです。
仏語に日本語が大量に入ってくるのは、やはり本格的に接触が始まった幕末(1860年代~)からですが、それ以前に既にフランスに入っていた日本語は、
・”bonze”(坊主)
・”sake(saque)(酒)
・”Nippon”(日本)
・”MIkado”(天皇)
・”samourai”(侍)綴が英語と違うことに注意
あと、ヘンな伝わり方をしたのが”Banzai”。
これはつい最近、ある人気テレビのMCが番組の終わりに、「では、ごきげんよう」というニュアンスで何故か”Banzai”を使い、それが広まったのだとか。
ロシア語になった日本語
インテリ、イクラ、ノルマ、コンビナート、カンパ…
これらの共通点はなんでしょうか。
答えは、日本語になっているロシア語。ロシア語なんて全然わかんなーいと言っておきながら、意外に食い込んでいます。
では逆はどうか。
海を渡りロシア語になった日本語は意外に少なく、иваси(イヴァシー)とсакура(サクーラ) くらいです。前者は「鰯」、後者は「桜」です。
ивасиは特にマイワシを指す語で、イワシ全体はсардина(サルディーナ)を使うそう。
桜の木はロシアにもあるそうですが、сакураはその中で日本で咲く桜、またはソメイヨシノを指すとロシア人に教えてもらったことがあります。
ヒンディー語・ウルドゥー語になった日本語
この言語の使用範囲はインドとパキスタンですが、彼らが必ず知っている日本語が2つあります。
まずは「リクシャー」。
これは日本のオリジナル乗り物である人力車のことなのですが、明治時代から人力車のシステムがアジア中に輸出され、中国や香港、インドで新しい花が咲きました。

香港では1970年代でも現役でした。
インドでは「人力車」が訛って「リクシャー」となり、今では自転車の「サイクルリクシャー」、バイク版の「オートリクシャー」なるものがあります。これでぼったくられたインド旅行経験者も数多し(笑)
リクシャーとは言いませんが、タイのバイクタクシーことトゥクトゥクも人力車の流れかもしれません。
もう一つが、「スズキ」。
厳密に言えば、インドとパキスタンでは「スズキ」の意味合いが少し違ってきます。
インドでは軽自動車のSUZUKIが古くからインドに進出しており、今やインドの自動車の50%を占めるようになりました。もはや敵なし、スターを取ったスーパーマリオ状態です。
インドにスズキがなぜそこまで食い込めたのか、トヨタが頭を下げて聞きに行ったという話もあります。
その影響で、小型自動車はすべて「スズキ」です。
対してパキスタン。
パキスタンでの「スズキ」は、百聞は一見に如かずなので、まずは画像をどうぞ。


!!!!!
日本車を魔改造したものくらいはわかると思います。
これは実は、軽トラの荷台部分を改造し、客を載せて走るミニバスです。サイトによっては乗り合いタクシーと表現していますが、実際にパキスタンでスズキを使いまくった私に言わせると、ルートがだいたい決まっているのでタクシーではなくバス。ただし、バスと言ってもバス停などあると思うなそれがパキスタン。
「スズキ」はスズキの軽トラを改造…しているとは限らず、ダイハツやマツダの軽トラもありました。しかし名前は「スズキ」。
パキスタンに行ってスズキのお世話にならない日はないというほど、パキスタンの街を縦横無尽に走る生活の足となっています。
そのついでにもう一つパキスタンにある乗り物が、「トヨタ」。
これはトヨタのマイクロバスかハイエースのことで、スズキのデカい版のような感じです。ただし、料金はスズキの数倍なり。
ラワールピンディという街に宿を取り、某国のビザ取得の用事で首都イスラマバード(の某国大使館)へ向かうとき、宿の主人が私に聞きました。

イスラマバードにはスズキで行くのか?トヨタか?それともタクシーか?
聞いたときはわけがわからなかったですが、実際に行ってみるとその意味がわかります。

このように、日本のを直輸入しすぎやんか!というものも、ふつうに走っています。私は「◯◯とうふ店」というのを見ましたし(笑)
外行語の世界、まだまだ続きます。
韓国語になった日本語
韓国語とは、漢語という大媒体もあって共通する単語は非常に多いです。今でこそハングル(文字)を使っていますが、漢語由来の単語は漢字に直すことができますし。
その漢語でも、日本語から伝わったものとして有名なものに、「土方」「案内」「約束」「高速道路」などがあります。
しかし、それを挙げていくとまたキリがないので、今回はそれ以外に限定します。
韓国語としてすっかり定着している日本語として、
・かばん
・ズボン
・バケツ
・オーライ
などがあります。これらは韓国人も、これって日本語だったの!?と驚くほど、ふつうに韓国語として使っている日常会話です。なお、現時点では起源を主張していません(笑)
逆に、韓国語→日本語で伝わったものは、キムチなどの食べ物・料理用語の他に、「チョンガー」があります。
独身男性をあらわす語で、私が子供の頃は祖父母世代がふつうに使っていたので、1970年代前半以前に生まれた人は、自分らの親世代が使っていたのを一度くらい聞いたことがあると思います。私も単語としては知っているのですが、日常会話で使うことはなく、今は死語になっています。
中国語・台湾語になった日本語
こちらは、漢字という「見ればわかる」媒体があるため、その量は膨大となります。
特に明治時代以降、政治や経済、哲学などの近代概念語を中国人留学生がカンニング、そのまま中国語に採用されたという経緯があります。
「中華人民共和国」も、日本人が作った熟語を省けば「中華」しか残らない…国がなくなるやんというジョークもあります。
「国」だって、元々は「城壁に囲まれた町」くらいの意味しかなかったものに、英語のcountryの訳に当てたのは幕末の日本人。それまで「国」という近代概念自体が、中国にも日本にもなかったですから。
台湾に残る日本語
かつて日本領で日本文化が日常生活に染みこんでいる台湾には、「日式台語」というものが存在しています。「和製英語」ならぬ「日製台(湾)語」ということですが、台湾には歴史的経緯もあり意外すぎるほどの数の日本語が定着しています。
私の仮説ではあるのですが、「日式台語」を時期別に分けると、
1.日本統治時代から定着していたもの(~1980年代)
2.1990年前半の日本文化全面開放(1993年まで、建前上日本文化は法的に制限されていた)による「哈日族」の出現と、彼らによる伝播(1990~2000年)
3.ネットの発達による日本の新語の流入(2005年~)
となります。
1.をまた分類すると、「日本語の発音のまま残っている」「日本語の漢字を台湾語(か北京語)で発音」となります。
前者には「ビール」「トラック」「おじさん」「おばさん」「ホームラン」などがあり、最近も2020年総統選挙のTV公開討論会で、国民党候補者が唐突に「おみやげ」を使い、見ていた私は「うぇ!?」と面食らったことがありました。後でTwitterで台湾人に聞いてみたら、「おみやげ」は普通に使われるそうです。
後者は、「便所」「住所」「看板」「出張」「便當(弁当)」「料理」「旺年會(忘年会)」「物語」など、これも挙げるとキリがないほど。
また、車や建築など工業用語に日本語が数多く残っており、台湾の工業用語辞典を見ると日本語だらけという有様です。
おもしろいところでは、「アタマコンクリ(阿塔瑪控苦力)」(融通がきかない石頭→頭悪いという意味)や、日本統治時代に朝から風呂に入る日本人を

朝から風呂って…日本人頭おかしいwww
と感じた台湾人のカルチャーショックが言葉として残った「あさぶる」(もちろん語源は「朝風呂」。意味は「メチャクチャ・非常識」)があります。
2.の代表は、1990年代前半に日本で流行った「チョーXX」の台湾版、「超XX」。すっかり台湾に定着し、今の台湾の10代はこのルーツが日本語なことすら知らないんじゃなかろうか。それほど日常用語化しています。
3.は、サブカル用語目白押し。「二次元」「腐女子」「痛車」「魔改造」「黒歴史」「神」まで様々。しかも、意味や使い方は日本と全く同じ。最近のネット用語は漢字が多いため、直感で意味をつかみとりやすいのでしょう。
さらに、これらが台湾を起点に香港や中国、シンガポールなど他の中国語圏へ伝わり、ネットでの伝播速度の速さもあって中国人も平気で使っています。
まだネットが一般的ではなかった1990年代前半、中国で「一級棒」という単語が流行していました。

あなたの中国語は「一級棒」ね!
なんてよく言われていました。文字だけだと高級そうな棒をイメージしますが、これ北京語読みすると「いーちーばん」。つまり、日本語の「いちばん(一番)」の音訳、台湾からの「カンニング」だったのです。
台湾に残る日本語については、姉妹ブログにて説明しています。

おわりに
「外行語」は、「外来語」に対しあまり注目されません。しかし、一歩目を向けてみると日本語が意外に使われていることがわかります。
Twitterで、リツイートされたある言葉が流れてきました。
「世界のマンガ・アニメ好きにとって、日本語はラテン語だ」
原文は英語だったのですが、これは現在の日本語がどういう位置に立ち、外国人に日本語がどう思われているのかを説明した名文だと思います。たかがオタクと侮るべからず、kawaiiのように世界中に伝わり、世界共通語になってしまったものもあるのだから。

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コメント
戦前、日本が信託統治していたパラオでも、
日本語が現地語となっています
なかでも一番面白いのが、「チチバンド」
日本語の「乳バンド」、つまりブラジャーなのです
日本では外来語のブラジャーに駆逐された言葉が、
パラオでは未だ現役の(パラオにとっては)外来語なのが面白いですね