2.天保山
さて、大阪の隠れた登山第二弾の舞台は、大阪市に移ります。
堺の蘇鉄山から天保山までは、電車と地下鉄を乗り継いで・・・という邪魔くさいルートになるかと思いきや、公園の最寄り駅である南海電鉄の堺駅前から天保山まで直通のバスがあるではないですか。まるで大阪珍山登頂のためにあるが如き路線です。この路線を「珍山線」と名付けてやろうか。
それも、現地のバス停は天保山公園の入り口の目の前。
「蘇鉄山に登ったら、次は天保山もよろしくね~」
という南海バスの陰謀か。
天保山は、名前でなんとなく察せられる通り、江戸時代の天保年間に大阪を流れる安治川にたまった土砂を運び出して作られた、人工の山です。
安治川の河口に作られたこの山は、風景が良かったこともあって次第に桜や松などが植えられたりお茶屋ができたりして、大阪の名勝として名前が知れていきました。
『浪花天保山風景』という錦絵の一部です。
(※写真はあくまでほんの一部。フルサイズはこちらをどうぞ)
幕末の頃の天保山を描いたものですが、明治に入る頃には既にこんな賑やかな公園になっていました。
天保山は、当初は20メートルほどの高さがあったようです。が、砲台作りに土砂が削られたり、戦後の急激な地盤沈下があったりして、標高は徐々に低くなっていきました。
天保山の標高の変遷は、
大正10年(1921):7.2m
昭和46年(1971):7.1m
昭和52年(1977):4.7m
昭和62年(1987):4.5m
平成5年(1993):4.5m
(「天保山山岳会」より)
と徐々に低くなっていき、平成5年(1993)には、お前なんて山じゃねーと地図からも消えてしまいます。
しかし、後に地図から復活し、「日本一低い山」として知る人ぞ知る名所となりました。
明治元年(1868)に明治天皇がここで軍艦を観閲されたことから、第一回観艦式の場としても知られています。
観艦式とは軍艦のパレードのことですが、日本史の観艦式第一号はここ天保山だったのです。この観艦式もそうですが、これが一大事件だったのは、天皇が500年ぶりに京を離れたこと。そして
「朕は絶対京から出ぬ!」
と駄々をこねていた明治天皇が重い腰を上げたこと。
日本一低い山!だったはず?
天保山の「頂上」は、明治天皇行幸碑の横あたりにあります。
いちおう、ここが「頂上」らしいのです。三角点もちゃんとあります。
標高は4.53m。7mの蘇鉄山よりさらに低いですが、こちらは一等下がって(?)「二等三角点」です。しかし、それより高いところが園内にいっぱいある上に、それが迷彩というかカモフラージュとなり、「頂上」を探そうにも意外にわからず、「遭難」してしまいます。
「頂上」が探せない「遭難者」のために、天保山にはなんと山岳救助隊がいます。
救助隊のモットーは「いちびる」。関西弁で「冗談でからかう」「いじる」、犠牲精神と大阪の「いちびり」精神に溢れた方々なのです。
私も登山中に「遭難」し、登頂に15分もかかってしまいました。もし「遭難」してしまった場合は、救助隊に助けを求めましょう。ちなみに、2017年11月現在、救助要請はゼロ件だそうです。嗚呼、天保山は本日も平和なり。
天保山は地図から消えた数年間を除き、「国土地理院の地形図に載っている日本一低い山」としてその座を譲りませんでした。
しかし、標高6mだった宮城県の日和山が、東日本大震災の津波と地盤沈下で山ごと消滅。震災が落ち着いた後、土砂が積み重なった山を再測量すると、ここが標高3mと認定されました。天保山は「日本一低い山」から陥落してしまったのです。
それにしても、字面だけだと山が消滅したというより、津波と地震で3m分削られたということになりますが、この出来事だけでも東日本大震災のエネルギーがすごかったことがわかります。
しかし、この看板からわかるように、天保山はいまだ「日本一低い山」を名乗り続けています。
その根拠は、日和山には三角点がないということ。
国土地理院発行の地図から引っこ抜いてきましたが、確かに日和山には三角点がありません。山の標高は三角点によって決められる。三角点がない日和山の標高はただの参考記録。よって「日本一低い山」の王座は天保山にあり。看板に偽りなし。
こういう理屈なんだそうな。
ちなみに、天保山も日和山も、そして蘇鉄山も、すべて江戸時代以降に築かれた人工の山(築山)です。それなら、「自然形成で日本一低い山」はどこかと調べてみると。
徳島県の弁天山(6.1m)だそうです。
ほぼ徳島市にあるところなので、徳島観光ついでにネタとして行ってみては如何でしょうか。
こうしてこの日は、2つも山を登ってしまいました。その標高の合計は11.5m。1日で11.5mも登ったのか、どうりでクタクタになったわけやわ。
総登山時間より、バスの移動時間の方が長かったけどね。
高い山に登ればいいというものではない。富士山登頂もいいけれども、低い山に登るというネタとしてはいとをかし。
誰が何をどう言おうとも、そこが山である以上それは「登山」だから。
大阪関連の記事は他にこんなものが!