外行語-海を越え外国語になった日本語

外国語になっている日本語外行語ブログエッセイ

最近の日本語は乱れている!!

という声をよく聞きます。20年前も、10年前も、そして今も(笑)

特によく聞かれるのが、

「カタカナ語が多い」

ということ。特に最近は英語の氾濫で日本古来のことばが滅んでしまうのではないか・・・そう声高に主張します。

別にカタカナ語は今に始まったことではありません。
明治時代の学生の話し言葉を忠実に描いた「当世書生気質かたぎ」には、こんな会話があります。

「我輩のウォッチではまだテンミニッツ位あるから急いで行きよったら大丈夫じゃろう」

坪内逍遥『当世書生気質』

お前はルー大柴かと突っ込みたくなりますが、当時はこういう英語やドイツ語混じり会話がインテリの間で流行していました。

だから、そんなに神経質にならなくても言葉は自然に駆逐されるものだし、仮にカタカナ語に駆逐されたとしても、文書として残るので滅びはしません。

日本語は、外来語を柔軟に受け入れるソフトな言語に入ります。英語も歴史的経緯から、かなり柔軟に外来語を吸収できる軟体動物のような言語なのですが、英語が世界共通語になったのも、そんな軟体動物ぶりが一因というのが私の持論です。逆に言うと、19世紀に英語と国際共通語の座を争っていたフランス語が敗れたのは、外来語の流入に保守的だったからじゃないかなと。

中国語は逆に、外国語をいちいち意訳します。

たとえば、DVDは「数字視頻光盤」。「デジタル(数字)」「ビデオ(視頻)」「ディスク(光盤)」をいちいち漢訳したものですが、DVDでええやんか!と思うでしょ?中国人も内心ではそう思うみたいで、日常会話ではDVDだったりします。

カタカナ語は基本的には外国から来た言葉。これを「外来語」と言います。
が、その逆って何というかわかるでしょうか。
「海外に出て行き現地の言葉として定着している日本語」。それを、「外行語」と言います。「がいぎょうご」なのか「がいこうご」なのか、この記事ではどちらでもいいということにしておきます。どっちで入力しても変換できないし。

本日は、そんな「海を渡った日本語」の世界を。

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英語

Everybody Samurai Sushi Geisha, beautiful Fujiyama…

米米CLUBの”Funk Fujiyama”という歌のサビですが、昔のガイジン様が思いつく日本語はこんな感じです。
他にも、古くから英語として定着している日本語に、”tsunami”(津波)があります。古来から津波で壊滅させられている日本語ではマイナス因子を持つ単語ですが、英語では力強さをあらわすこともあるのか、スポーツチーム名として使われていることもあります。

しかし、最近は日本のサブカル文化が世界中に広がったため、けっこういろんな日本語が英語化されています。「弁当」も”Japanese style lunch box”なんてくどくど言わなくても”bento”の一言でいいし、エロアニメは”hentai”の一語で済みます(笑)

英語として日常で使われている日本語なんか挙げているとキリがないので、「オックスフォード英英現代辞典(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)」に掲載されている日本語を。
Oxford辞典はいちおう世界一権威のある英語辞書とされており、ここに掲載されたら、

おめでとう!あなたは立派な英語の仲間入りです!

ということ。そんなOxford辞典には、どんな日本語が載っているのでしょうか。

Origami
Haiku
Bonsai
Hiragana
Katakana
etc…

まあ無難な日本語ですね。
しかし、その中には「こんなのも『英語』なの!?」というものもあったりします。

Walkman

SONYのウォークマンのことです。Walkmanは当時の会長だった盛田昭夫が思いついた和製英語なのですが、ウォークマンのイギリス販売の際、現地の社員は猛反対したとか。
仕方なく別の名前で販売したものの、ミュージシャンが積極的に”Walkman”を使い始め、沈黙の応援団となりました。現在は、オーストラリアを除いてWalkmanに統一されています1
そんなWalkmanは、本場の英語にバージョンアップした数少ない和製英語です。

kawaii

「かわいい」です。ちゃんと形容詞として載っています。
日本サブカル、特に漫画やアニメが世界中で人気となり世界中の人が使い始めたのが、この”kawaii”
英語にも”cute” “pretty”という「かわいい」があるのですが、「かわいい」より使用範囲が狭い。
人にもモノにも何でも使え、さらに意味も中立的な”kawaii”は、非常に使い勝手がよろしいのです。特に女の子の間で大人気となりました。

正直、”kawaii”はオタクの間やネットスラングとしての価値しかない。私はそう思っていました。が、オックスフォード英英辞典に載っているということは、いわば地下アイドルが一躍メジャーデビューという感じですね。
また、まだオックスフォードには掲載されていませんが、”sugoi”(すごい)もcoolと同じ意味でけっこう使われています。

kanji

「感じ」ではなく「漢字」です。
漢字は、もともと“Chinese character”です。おそらく学校で習う「漢字」の英訳はこれのはず。
しかし、やはり日本のサブカルの影響と、”kanji”の方が画数が少ない(日本風に言えば)のもあるのか、我々の想像以上に”kanji”だらけです。また、「日本語で使われる漢字」をkanjiと表現しているニュアンスもあります。
これも最初はネットだけの現象かと思ったのですが、テレビの外国人観光客の会話を聞いていても、”kanji”ですね。

honcho

ホンチョー?そんな日本語あったっけ?
と日本人だからこそ混乱してしまいますが、実は少し綴りが変わっている日本語起源の言葉です。

これ…「班長」なんです。

基本的に”head honcho”という形で用いて、「現場リーダー」や「その部署のトップ(だからhead)」という意味で、意外なほどよく使われています。感覚的には、まさに「班長」。

アメリカ起源のアメリカ英語ですが、自他ともに認める英語の世界一の権威Oxford英語辞典やケンブリッジ大学編纂辞書、そしてアメリカ英語の権威Webstarにもちゃんと掲載されています。honchoと綴るものの、アメリカ英語では日本語のまま「ハンチョー」と発音します(英国では綴りのまま)。
起源は、太平洋戦争時代に日本陸軍の捕虜から聞いた「班長」からという説2と、アメリカ日系人社会から説、終戦後の日本進駐軍GIが使い始めた説3など、諸説ありますが、初出は1947年(昭和22年)であることは確かだそうです。

ところで。

漫画界の大作、『進撃の巨人』の登場人物の中でも主人公をしのぐほどの人気があるのが、「人類最強の兵士」ことリヴァイ。
彼の役職は「兵士長」ですが、一方でリヴァイ班のトップの「班長」でもありました。アニメの英語字幕では、「兵士長」「班長」どちらも”Captain”となっています。翻訳としては間違いではないものの、リヴァイの役職的に”honcho”ってビンゴな単語なのだから、遊び心も含めて”(head) honcho”が適訳じゃなかったのかな〜!?というのが、個人的な所感であります。

5.cosplay

なにこれ?はい、「コスプレ」です。
コスプレは”Costume play”の略であり和製英語でもありますが、これもオックスフォード辞典に掲載されているオタク力の恐ろしさ。世界中の英語を監視してる(らしい)オックスフォード大学英語協会(?)が認めたのだから、コスプレってもはやバカにできません。ちなみに、”cosplay”は名詞でもあり、動詞でもあります。

ここで、一般人がまず使うことがなさそうな英語のイディオムを。

cosplay as A from B

で、「B(漫画・アニメ名)のA(役)のコスプレをする」という意味になります。

例文)I’m cosplaying as Goku from Dragonball
(「私はドラゴンボールの孫悟空のコスプレをしています」)

見た目でわかるっちゅーねん(笑

フランス語

フランスは、ある意味世界で最初に日本文化を受け入れた国であります。
幕末・明治のジャポニズムからアニメまで、フランスから世界へ拡散した日本文化は多く、今でも知る人ぞ知るJapan Expoに代表されるように、欧州への日本文化発信基地となっています。あの

俺たちの文化は世界一ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

と多文化をバカにしまくりの「西の中華」フランスが、異国(日本)のサブカルをすんなり受け入れたということは、実はすごいことなんだぞ!とイタリア人に言われたことがあります。

あの傲慢不遜フランス人が絶賛してる日本文化って何なの?

イタリア人が漫画やアニメに足を突っ込んだ理由は、まとめるとこんな感じなんだそう。世界での日本文化、特に漫画アニメの広がりは、フランス様のおかげと言っても良いでしょう。

「外行語」としては英語とけっこうかぶるところがありますが、あるサイトに掲載されていた「仏仏辞典に載っていた日本語」を少し拝借します。

この仏仏辞典の良いところは、はじめて文献に現れた時期も書かれていることですが、最初にフランス語に出てきた日本語は”obi”(帯)。
1551年の文献に出てくるそうですが、フランシスコ・ザビエルが日本に上陸しキリスト教を伝えたのが1550年です。
日本史ではザビエルが「日本と接触した最初の西洋人」となっていますが、”obi”が1551年に文献に出ているということは、それ以前に西洋人との接触があった可能性は十分にあります。
そこまで調べる気はありませんが、そう考えると歴史が楽しくなってきませんか。歴史は「想像の科学」なのです。

仏語に日本語が大量に入ってくるのは、やはり本格的に接触が始まった幕末(1860年代~)からですが、それ以前に既にフランスに入っていた日本語は、

・”bonze”(坊主)
・”sake(saque)(酒)
・”Nippon”(日本)
・”MIkado”(天皇)
・”samourai”(侍)綴が英語と違うことに注意

あと、ヘンな伝わり方をしたのが”Banzai”。
これはつい最近、ある人気テレビのMCが番組の終わりに、「では、ごきげんよう」というニュアンスで何故か”Banzai”を使い、それが広まったのだとか。

ロシア語

インテリ、イクラ、ノルマ、コンビナート、カンパ…
これらの共通点はなんでしょうか。
答えは、日本語になっているロシア語。ロシア語なんて全然わかんなーいと言っておきながら、意外に食い込んでいます。

では逆はどうか。
海を渡りロシア語になった日本語は意外に少なく、иваси(イヴァシー)とсакура(サクーラ) くらいです。前者は「鰯」、後者は「桜」です。
ивасиは特にマイワシを指す語で、イワシ全体はсардина(サルディーナ)を使うそう。
桜の木はロシアにもあるそうですが、сакураはその中で日本で咲く桜、またはソメイヨシノを指すとロシア人に教えてもらったことがあります。

ヒンディー語・ウルドゥー語

この言語の使用範囲はインドとパキスタンですが、彼らが必ず知っている日本語が2つあります。
まずは「リクシャー」

これは日本のオリジナル乗り物である人力車のことなのですが、明治時代から人力車のシステムがアジア中に輸出され、中国や香港、インドで新しい花が咲きました。

1970年代の香港尖沙咀

香港では1970年代でも現役でした。

インドでは「人力車」が訛って「リクシャー」となり、今では自転車の「サイクルリクシャー」、バイク版の「オートリクシャー」なるものがあります。これでぼったくられたインド旅行経験者も数多し(笑)
リクシャーとは言いませんが、タイのバイクタクシーことトゥクトゥクも人力車の流れかもしれません。

もう一つが、「スズキ」
厳密に言えば、インドとパキスタンでは「スズキ」の意味合いが少し違ってきます。
インドでは軽自動車のSUZUKIが古くからインドに進出しており、今やインドの自動車の50%を占めるようになりました。もはや敵なし、スターを取ったスーパーマリオ状態です。
インドにスズキがなぜそこまで食い込めたのか、トヨタが頭を下げて聞きに行ったという話もあります。

その影響で、小型自動車はすべて「スズキ」です。

対してパキスタン。
パキスタンでの「スズキ」は、百聞は一見に如かずなので、まずは画像をどうぞ。

!!!!!

日本車を魔改造したものくらいはわかると思います。
これは実は、軽トラの荷台部分を改造し、客を載せて走るミニバスです。サイトによっては乗り合いタクシーと表現していますが、実際にパキスタンでスズキを使いまくった私に言わせると、ルートがだいたい決まっているのでタクシーではなくバス。ただし、バスと言ってもバス停などあると思うなそれがパキスタン。

「スズキ」はスズキの軽トラを改造…しているとは限らず、ダイハツやマツダの軽トラもありました。しかし名前は「スズキ」。
パキスタンに行ってスズキのお世話にならない日はないというほど、パキスタンの街を縦横無尽に走る生活の足となっています。

そのついでにもう一つパキスタンにある乗り物が、「トヨタ」
これはトヨタのマイクロバスかハイエースのことで、スズキのデカい版のような感じです。ただし、料金はスズキの数倍なり。
ラワールピンディという街に宿を取り、某国のビザ取得の用事で首都イスラマバード(の某国大使館)へ向かうとき、宿の主人が私に聞きました。

パキスタン人
パキスタン人

イスラマバードにはスズキで行くのか?トヨタか?それともタクシーか?

聞いたときはわけがわからなかったですが、実際に行ってみるとその意味がわかります。

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このように、日本のを直輸入しすぎやんか!というものも、ふつうに走っています。私は「◯◯とうふ店」というのを見ましたし(笑)

外行語の世界、まだまだ続きます。

NEXT:台湾に残る多くの日本語

  1. ただし、オーストラリアは先に商標登録されていたらしく、現在でも使えません。
  2. Webstar Dictionaryの語源解説による
  3. Oxford dictionaryによる。
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コメント

  1. 戦前、日本が信託統治していたパラオでも、
    日本語が現地語となっています
    なかでも一番面白いのが、「チチバンド」
    日本語の「乳バンド」、つまりブラジャーなのです
    日本では外来語のブラジャーに駆逐された言葉が、
    パラオでは未だ現役の(パラオにとっては)外来語なのが面白いですね

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