阪和電鉄の歴史【阪和線歴史紀行】

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阪和線、売ります

『堺市史』には、戦後の阪和線のこんな話が、一項を割いて書かれています。

戦後の混乱は、国鉄にまで大きな影響を及ぼしました。
昭和24年(1949)のこと。政府予算が大幅な赤字となり、その補填に運輸省と国鉄が路線の民間払い下げを行うこととなりました。ターゲットとなったのは、戦争中に買収した元私鉄、そのリストの中に阪和線も入っていました。つまり、借金返済のため国が阪和線のバーゲンセールを行うというのです。

その情報が堺市の耳に入ると、南海電鉄・堺市議会・堺市商工会、そして市民を巻き込む賛否両論の大激論となりました。

賛成派の筆頭は、かつて阪和電鉄を吸収した南海電鉄。戦後間もない昭和22年(1947)、

南海電鉄が国に阪和電鉄を返せと言った資料
南海電鉄
南海電鉄

おい国、阪和線をうちに返せ!!

と国会議員を通して請願します。南海山手線が国有化されたのは戦争のためで、その戦争が終わり使命は果たしたので国有化は無効、よって返せという理屈です。しかし、

運輸省
運輸省

戦災でお前んとこも被害受けてるのに、阪和線を運営できる体力あるのか!

と逆ギレされあえなく断念。
そんなところに、国から売りますの話が。南海が飛びつかないわけがありません。

売りますといっても、別に南海に売りますなんて一言も言ってないものの、すっかり俺のもの気分になった南海は、堺市の商工会議所と市民を味方につけ、昭和24年4月に堺東駅前で「阪和線を南海様に引き渡せ大集会」なるものを開きました。

払い下げに満場一致で猛反対したのが、堺市議会でした。その理由は、

1.杉本町から臨港までの路線建設がチャラになる
(「臨港」がどこを指すのか不明ですが、『堺市史』によると土地買収も進んでいたそうです。我が母親が、いつの時期か忘れたけど阪和線の支線を臨海工業地帯まで作るというウワサを聞いたことがあるそうですが、市議会の議事録でもたどればわかるかな?)

2.南紀行きの直通列車がなくなり、不便になる
(戦前から南海も南紀直通列車を走らせています。節子それは屁理屈やw)

3.阪和線も南海になれば堺の鉄道が全部南海になり、「競争相手」を残しておいた方がサービスや料金面でメリットがある
(これは案外説得力があるかも)

議会は議会で、同じく昭和24年4月に「民営化反対集会」を行い、行政として反対の猛アピールを行いました。

旧阪和電鉄経営陣から阪和線の返還願い

南海&商工会議所vs議会がにらみ合いを続ける中、もう一つの動きがありました。旧阪和電鉄経営陣と沿線市民が、阪和電鉄の復活という、もう一つの民営化の道筋を唱え始めたのです。堺市の、阪和線をめぐる「堺三国志」の始まりを予感させます。

しかし、この三国志はあっけなく終わりを告げました。「阪和線売却案」が参議院で否決されてしまい1、払い下げ計画自体が白紙となったのです。落語のようなオチでした。

この話は、ネットでは全く話にも上がっていませんが、堺市議会が動いた上に泉南市の行政資料にも残っていたので、フェイクニュースではなさそうです。私も地元民として、「戦後すぐ南海が阪和線を取り戻そうとした」「阪和電鉄の旧経営陣による復活の動きが戦後にあった」という話は聞いたことがありますが、おそらくこの話だったのでしょう。

またもや国に振り回された南海はその腹いせか、三国ヶ丘駅にはJRは快速が止まって利用客数激増なのに、南海は急行ガン無視。利用者にとっちゃ不便極まりない。

三国ヶ丘に急行止めろ!って投書や要望、絶対あるはずです。戦後のほんの一時期は停車していたのですが…いつ止まるの?今でしょ!

しかし、

南海電鉄
南海電鉄

我が社の誇りにかけて全力で通過します!ただのお客様のご要望に興味ありません!

と思っているのかどうか知りませんが、今日も元気に猛スピードで通過中なことは確かです。
南海は大阪市にいじめられ、国に翻弄され、けっこうひどい目に遭っているのは同情するのですが、せめて区間急行くらいは止めて~な~。なんば方面は準急あるからまだいいけれど、高野山方面(中百舌鳥より先)が行きにくーてしゃーないし。

しかし、止めたら止めたで関空へ向かう客が一気に三国ヶ丘でJRに流れてしまい、敵に塩を送ることになってしまうという事情もあるので、望み薄でしょうな。

阪和電気鉄道は人間に例えるとかなり波乱の人生なのですが、たかが鉄道と侮るなかれ。たった一つの路線でもこれだけ書ける、もとい歴史が詰まっています。鉄道会社は数あれど、これほど数奇な運命をたどった路線はないと思います。

後半は、天王寺駅のホームの謎を解いていきます。

後編はこちら!

・『阪和電気鉄道史』竹田辰男著
・『鉄道史料』鉄道史資料保存会(※阪和電鉄に関係ある号 第129号、第136号など)
・『鉄道史料 第108号 南海山手線の考察』竹田辰男著
・『天王寺鉄道管理局三十年写真史』日本国有鉄道天王寺鉄道管理局/編
・『日本国有鉄道百年史』日本国有鉄道編
・『関西の鉄道18 JR阪和線・紀勢線特集』関西鉄道研究会/編(1988年)
・『阪和線 激動の軌跡』すばる社編
・昭和17年大阪史航空写真-大阪史公文書館蔵
・泉南市埋蔵文化財センター企画展『昭和の一大観光地砂川』
・国立国会図書館デジタルコレクション
・堺市立図書館デジタルアーカイブ
・聞蔵(朝日新聞過去記事データベース)
・ブログ多数
・阪和電鉄パンフレット多数

  1. 泉南市史紀要『史料・戦後の国鉄阪和線民営化運動の一展開』宇田正。
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