山中渓駅に残る私鉄時代の残滓

山中渓駅のホームを見渡してみると、特段変わった様子はありません。2面2線の対面式ホームです。
が、逆の方向を見てみると、ある違和感に気づきます。

下りホームから上り線(天王寺方面)の光景ですが、架線柱の横幅が無駄に長く、さらに線路を柱の間に意味深なスペースが…。
先端が尖った架線柱。これも実は阪和電鉄当時の生き残りです。
下り線ホーム
まずは、下りホーム側から見てみましょう。

現在は柵と壁で遮られている駅舎側にも、やはり意味深なスペースがあります。
しかも、ホーム裏側から道路へ伸びる一本の小道があります。スロープ状になっており貨物をここで荷揚げしたかのような形跡が見られます。

山中渓駅で貨物扱いなんかあったの?
戦前の大阪府統計書を見ると、どうもあったようです。
昭和10年(1935)を例にとると、「発送」が7,257、「到着」が231とあります。単位がkgなのかトンなのか不明ですが、山中渓駅から何かの貨物が送られていたことは、この数字から明らかです。
何が運ばれていたのかは不明ですが、場所柄木材かと思われます。
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また、上に挙げた写真の左側にも、貨物の無蓋車が写り込んでいます。人の流れが写真手前へと続いているので、下り線で間違いありません。山中渓駅の下り線方面の貨物スペース、予想以上に大きかったかもしれません。
そして、現在は跨線橋で結ばれている駅舎とホーム間も、昔は平面で連絡していたことが、上の写真からわかります。

ホームの端から駅舎へ向けて「道」が伸びていることは、航空写真からも確認が取れます。
実は、現在の駅にもこのスロープの跡が残っています。

下り線から見た上り線のホーム下に、それは残っています。写真にはないですが、下りホームの下にも同様のものが眠っています。
その視線を駅舎の方向へ追っていくと…


跨線橋の真下に駅舎へつながる階段の跡も残っています。阪和電鉄時代は、多くのハイキング客がこ紀泉アルプス登山へ胸を躍らせながら、この階段を上っていたことでしょう。
上りホームは…
では、上り線ホームはどうでしょう。

駅舎から渡っている跨線橋が上り線ホームへ下りる位置、そこがかつての阪和電鉄時代のホームの端でした。写真の向こうは後年に増設されたものです。

ホームから「裏側」を覗いてみると、やはり不自然なスペースが目につきます。
貨物線スペースだった下り線に比べ、上り側は側面に山中川が迫っているのでさほどスペースは取れないのではないかと、実地観察前は思っていました。が、実際に見てみると予想外に広い。線路2線分くらいは全然取れそうです。
航空写真の判定はビミョーですが、ホームの側線側にもう一つ(山中川側)線路が一本あるような!?

跨線橋から俯瞰してみると、ホームと架線柱に、電車が一本通れるほどの不自然なスペースが目視できます。

航空写真(Google map)で上空から確認しても、上りホームの架線柱のスペースがやはり不自然です。
柱自体は阪和電鉄時代の鉄柱ではなく、最近取り替えられてコンクリート製になっていますが、過去の航空写真で確認すると昔から同じ位置にあったようで、これも山中渓駅が2面4線だった名残の一つとなります。
では、山中渓駅はいつから現在の形になったのか。
それを物語る資料はないので、航空写真で推測してみます。

昭和22年(1947)の航空写真では、戦後の混乱期もあって戦前からほぼ手つかずと思われます。

昭和36年(1961)になると、上り線ホームが黄矢印分、和歌山側に伸びています。上り線の側線は、この時点で撤去されたと思われます。下り線の方は不明ですが、おそらく同時期に撤去されていたと思います。

線路は現在残っていませんが、国土地理院の地図には側線が不完全な形で残っています。ブログを読んだ読者さんからの指摘です。
さらに、確信を持つような写真がありました。

昭和50年(1975)の山中渓駅の写真です。ビミョーに見えにくいですが、貨物列車の重連です。
阪和電鉄時代のホームの姿が色濃く残っています。

こちらも昔は阪和線をよく走っていた貨物列車ですが、駅舎からホームへつながるスロープが左側に見えています。

偶然ながら、ちょっと似た角度かなと思います。

キハユニという珍しい車両をつなげた急行「きのくに」が駅を通過する姿ですが、本題はそこではなく撤去された側線の跡が残っていること。
昭和50年の時点ですでに現在の「2面2線」になっていたのは確定ですが、バラスト(線路に敷かれた砂利)が新しいことから、側線が撤去され駅の構造が変わってさほど時間が経っていないものと思われます。
山中渓駅はずっと対面式のホームだった…そんなの当たり前やん。
自分の中で鉄板となっていたそんな「常識」を自分でぶち破ることは、この上のない快感です。

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