天気から見る二・二六事件ー事件当日、本当に雪が降っていたのか？

二・二六事件＝雪というイメージがあります。二・二六事件を扱う映画やドラマを見ても、226は雪でしょ！という設定はマストのようです。

しかし、当日本当に雪が降っていたのか？事件当日の天気はどうだったのか。
今回は、「天気」というまた違った観点の二・二六事件を。

INDEX

二・二六事件当日の天気は？　1936年2月26日の天気を考察する
1. 結論

二・二六事件当日の天気は？　1936年2月26日の天気を考察する

気象庁のHPから、過去の天気や気温などを検索することができます。
当然、1936年2月の気象状況も見ることが可能です。

そこで、2月26日の天気を見てみると…

なんということでしょう！

青年将校たちが事を起こしたのは、26日の午前5時前後。その2時間前、だいたい午前3時前後に兵に非常招集をかけています。そして7時前後にはすべてのミッションが完了しています。
そのときの降水量はゼロ。つまり、雪は降っていなかったのです。

嘘つけって？雪は降ってたって？
そんな声にお応えして、ぐうの音も出ない一次資料をご用意致しました。

1936年2月26日午前6時、青年将校がまさに襲撃を行っていた頃の天気図です。
関西から九州、瀬戸内海沿いに雪マークがついていますが、東京は◎の曇りマーク。２６日の気温は非常に低く、最高気温でも０℃。降水があれば間違いなく雪でしたが、上述のとおり降水量はゼロ。実際には降っていません。

朝８～９時から降水量が記録されているので、朝から夕方まで降雪があったのは確実ですが、１日の降水（雪）量は6.7mm。この量なら多くても数センチ積もった程度。

しかし、このように雪が積もっています。しかもかなりのドカ雪。

これには、ある理由があったのです。

２６日ではなく、２月全体の気象状況を見てみましょう。

二・二六事件と雪。1936年2月23日の大雪 — 1936年2月の気象状況。気象庁HPより

①：1日の降水（雪）量
②：1時間の最大降水（雪）量
③：日の平均気温（その右から最高／最低気温）

ですが、23日の降水量に注目。平均気温は0℃/日とかなりの寒さ。この日の降水は「降雪」とみて間違いありません。

昭和11年1936年2月23日の天気は雪 — 1936年2月23日午後6時の天気図（東京付近を拡大）

事実、23日の新聞の天気を見ても東京は雪となっています。東京どころか、東日本全体が雪マークですね。

ここで、東京の観測史上最大降雪量（日別）を見てみましょう。

1位：46cm (1883年2月8日）

2位：38cm (1945年2月22日）

3位：36cm (1936年2月23日）

参考
8位：27cm (2014年2月15日）

（令和7年（2025）2月16日現在の記録）

事件の3日前の降雪は、東京の降雪量歴代3位の量だったのです。

その日にどれだけ雪が降っていたか、個人撮影のフィルムが現代に残っています。
この映像を見ると、雪国並みの降りっぷりですね。

二二六事件　発生当時の映像(個人撮影)

二二六事件　発生当時の映像(個人撮影)2月26日なのでどっから持ってきたかは、わかる人にはわかります

そして、24日、25日は降水量なし。天気は24日曇り、25日は1日中快晴だった模様。
この2日間で、36センチ積もった雪は溶け、25日夜でだいたい14～5cmほどになったと推定されます。

つまり、事件当日の雪は23日の記録的大雪の残りだったのです。

しかし、写真のご婦人は傘を差しています。これは朝8～9時から降り始めた雪のせいだと思うので、朝か昼に撮影したものということがわかります。

その後、降った雪の量＋23日からの残りで、だいたい22〜3cmほどになったと推定されます。
東京で20cm以上積もるなんて、滅多に見られたものではありません。それと事件が偶然重なってしまい、より雪のインパクトが強くなったのでしょう。

26日に割増になって積もった雪は、3日後の29日になっても完全には溶けていなかったことがこの写真でわかります。
27日、28日の平均気温を調べてみると、それぞれ1℃に0.5℃。最低気温は−2.4℃まで下がった天然冷凍庫に近い状態。なかなか溶けにくいのもさもありなん。

将校ほど防寒装備が厚くなかった事件最中の下士官・兵は、かなり寒く感じたと思います。

結論

二・二六事件の雪は、23日から降った記録的大雪の残り＋26日の「事件後に降った雪」ということが、一次資料から判明しました。よって、

映画やドラマにある「行軍や襲撃最中の雪」は、史実と異なるフィクションなのでした。

みんなそうだと思っていた「歴史の常識」は、記憶違いやドラマや映画で刷り込まれたフィクションだった…なんてのは実はよくあること。
筆者もWikipediaや行政機関のHPの記述に、

筆者

おや？この記述おかしくないか？

と理屈ではない直感的な疑いを感じ、さぐりを入れたら実はそれは「間違い」だったと。

そういうことがあったブログ（クリックすると開きます）

筆者

Wikipediaの記述にある「常識」をひっくり返した記事

筆者

市史にケンカを売った記事

筆者

官公庁HPの歴史記載を全否定した記事。
お前らの方が間違ってんやからはよ記載変えんかい阿倍野区と大阪市（笑

歴史家に必要なのは疑うこと、特に権威と化した常識を疑えということ。みんなが「そうだ」と思っていた常識を疑い、それをひっくり返す瞬間は、ギャンブルやってるよりカ・イ・カ・ン…と薬師丸ひろ子の気分になります。
ギャンブルやアルコールなどの依存症は、脳内の快楽物質ドーパミンが大放出することから始まるのですが、この「歴史の常識をひっくり返す」こともドーパミン大放出。同じ依存症なら、いっそこちらの方が良い。筆者の場合は「歴史常識をひっくり返す依存症」といったところか（笑

＝お知らせ＝

2月20日まで、映画『226』がYoutubeで無料で公開されています。
1989年の映画ですがキャストが非常に豪華で内容よりそっちに驚くほど。
無料のうちに見てて損はない！