武蔵新田の赤線跡を歩く
武蔵新田の赤線(特飲街)は、今のスーパーマルエツの裏側、赤いとこで塗りつぶした区域にあったとされています。
武蔵新田のもう一つの特徴は、範囲がやたら狭いこと。地図見ても狭いですが、実際に行ってみるともっと狭い。インスタントラーメン作る時間で一回りできるくらいの大きさです。もうちょっと大きいやろ…と深読みし地図とリアルタイムの資料を照合させてもやはり違う。
こんな狭いところに、最盛期には33軒の店があり、121人の接待婦が働いていたというのだから、人口密度はかなり高かったことでしょう。
昭和47年(1972)、そのマルエツの屋上から撮った武蔵新田の抜け殻の跡。この狭い路地に、赤線の女たちが立っていたのでしょう。
過去のGoogle mapストリートビューを見てみると、2008年には角の建物が1棟のみ残っていたようですが、私が訪問した2010年には見当たらなかった記憶があります。私の見逃しの可能性もあるので、国土地理院の航空写真で確認しました。当該の建物、2007年、2009年の写真では存在が確認できましたが、2010年12月の写真では消えていたので、私の訪問がワンタッチで遅かったようです。
2010年訪問時にはこれは怪しいとピンときたものの、赤線廃止後の地図を見るとふつうの住宅。確かに一軒の家に玄関が合計3ヶ所あるのは明らかにクロ…いや赤の特徴なのですが、個人的にはこれ以上の物証がないので断定は控えます。
赤線の建物があったのは、この家の一つ裏手の路地。赤線廃止数年後の地図を見ても、飲み屋に旅館に、番号がついた謎の寮…赤い灯は消えたのに地図にその残滓が残っています。
赤線があった頃は、このように狭い道の両側に女性がお客を引き寄せていたのでしょう。
昭和26年(1951)当時の「ショート」の料金は3〜400円、「お泊まり」は700〜1000円が相場だったようですが、女給との交渉次第で安くもなると当時の雑誌は記しています。
ここは、家の姿も外壁の色も10年前と全く変わっていませんでした。
一見ふつうの家ですが、サイドから見てみると裏口のところに石で装飾された外壁が。かつては何らかの店だったのでしょう。
そしてこの家、さりげなく「3階建て」ですが、3階部分はたぶん後年建て増したのだろうと思います。
もう一つの「特殊喫茶店」
赤線と一言でいっても、都道府県や場所によって営業形態は様々なことは、「遊郭・赤線跡をゆく」でも何度か述べてきました。東京都の赤線は「カフェー」としての営業許可を受け、そのエリアを正式名称で「特殊飲食店街」、略して「特飲街」と表現します。
武蔵新田の「特飲街」は、前述したエリアが「すべて」だというのが定説です。実際にそこに固まっていたのですが、私を含めて皆見逃していた箇所がありました。
ちょっぴり特殊な地図の武蔵新田駅周辺なのですが、赤矢印の店に○の中にキと書かれています。これはこの地図の記号の一種で、意味は「特殊喫茶店」…つまり赤線の店。
駅前に堂々とそんな店を構えるとは、なかなか見据えた根性ですが、よく周辺の人も反対しなかったなと。
現在は「松のや」などが入っているビルの場所には、「山口屋」がありました。地図でも駅の目の前ですが、実際に行ってみると本当に駅前。改札出たらすぐに特飲店。やはり、こんなところに作っていいのかとこちらが焦ってしまいます。
ここには「㐂久家」がありました。見てのとおり、かつてここにあったというだけで、当時の建物はおろかその残骸すら確認できません。
もともと小規模な特飲街だけあって、探索といってもほんの数分で済むような場所な上に、当時をしのばせる建物もほとんどありません。ただの東京の下町と化しています。光陰矢の如しと言いますが、ここに赤線があった時期はまさに光陰。あっという間に現れ、消えていった特飲街は昭和という64年の時代の中でも、一瞬だけ光った赤い灯でした。
東京の他の赤線(特飲街)の記事はこちらもどうぞ!
・『東京特飲街めぐり』
・『赤線漫談・赤線涼談』
・『大田区史 下巻』
・『火災保険特殊地図 大田区 昭和28年』
・『東京都全住宅案内図帳 大田区』
コメント
ふとしたはずみで武蔵新田の歴史に迷い込んだ者です。小生2024-2月で80歳。
現在東北の某市に在住、小生新田に住み着いたのは、昭和37年4月、電車を降りて踏切渡ったすぐ右に虎と言う看板の町中華がありました,その裏側に下宿を致しました、矢口側になります。新田側にも話は聞いていたので色々歩いて見ました。今は知りませんが,線路沿や他にも駅周辺には多くの小料理屋,居酒屋などかなりあった気がします,おかみさんやお姉さんなどは若くはないけれど,かなり際どい唄などドンドンと出して景気付けしてくれました.客を飽きさせる事など無かったように思います。勝手な想像ですが売春防止法施行後にそちらに行かれたのかななどと思ってしまいました.何にせよ遥か昔を思い出してしまいました。