なぜ日本人は英語が話せないのか。歴史・文化的な5つの理由

日本人はなぜ英語が苦手なのかブログエッセイ
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その4:学校教育の弊害

日本の教育は、語学に限らずおしなべて○か×かの二択方式です。
正解は学校から与えられた一つだけ、それ以外の答えはすべて×。

昭和初期に、命令によりアメリカの大学に留学していた海軍中佐がいました。
彼がアメリカの小学校に授業参観に行った時のことです。
先生が生徒に質問します。

先生
先生

お母さんにお使いを頼まれました。15分で帰ってきなさいと言われました。
お使いの帰り、道でおじいさんが倒れていました。おじいさんはとても辛そうです。でも、おじいさんを助けるとお母さんの言いつけを守れません。
さて、あなたはどうしますか?

生徒はそれぞれ自分で考えた答えを、手を挙げて答えます。
生徒たちの意見が出尽くした後、先生は笑顔で言いました。

先生
先生

は~い、みんな正解!

このとき、海軍中佐は顔が真っ青になったそうです。

こんな教育を小学生からやってるのか!米国と戦争したらえらいことになるぞ!

この中佐は、それまではどちらかと言うとアメリカむかつくしばいたんねんの対米強硬派だったのですが、これで考えを180度改め、対米戦争反対派となりました。

これは、語学の教育にも該当します。英語の授業でも、「Aという言い方にはBで答える」という一問一答方式が日本の語学教育では浸透しています。
Aに対して実際はCやD、Eの言い方もあるのに、「Bでなければならない」のでCDEは「不正解」。実際にネイティブがCDEの言い方をしているのに、テストでは「不正解」と×をつけられるのです。

対してアメリカは、「自分の頭で考えた答え」はすべて100点の○。逆に他人の意見の受け売りやWikipedia丸写しなどコピペには容赦なく、マイナス100点くらいの×をつけられます。

我々には無意識のレベルで、「正解を話さないといけない」というプレッシャーが襲い、萎縮してしまいます。①の完璧主義や②の恥もあいまって、
「正解がわからない、正解かどうか自信がない。だったら話さない」
という行動に至ってしまう。

今、小学校から英語の勉強が始まっているそうですけど、幼い時から英語教育より、私は日本の学校に浸透している○×方式を無くした方がいいんじゃないかと思います。

その5:明治の偉人たちの努力の結晶

幕末から明治初期にかけて、欧米から抽象的な言葉や科学用語が大量に日本に輸入されました。しかし、それに適合する日本語がなかったため、そのまま使っていました。

当時の日本人(特に学生)がどんな会話をしていたのか。

「我輩のウォッチでは、まだテンミニッツ位あるから、急いていきよったら、大丈夫だらう」

引用:坪内逍遥『当世書生気質(とうせいしょせいかたぎ)』 明治18~19年

お前はルー大柴かと(笑)

これじゃいかん!と立ち上がったのが、当時の知識人です。
彼らは西洋の概念語を「日本語化」するため、古今東西の書物を読み開き、自分自身の知恵を振り絞り、様々な造語を創作していきました。
今我々がふつうに使っている、「哲学」「小説」「政治」「経済」「歴史」「郵便」など、これらはすべて明治時代の知識人の創作熟語です。米国のペリー提督持参の親書に書かれた“President”を、江戸幕府の最高頭脳たちが喧々諤々の議論の上に訳した「大統領」も、幕末ですが同じです。

福沢諭吉

その中の一人に、1万円札こと福沢諭吉がいます。
彼はSpeech, Liberty(Freedom)、Copyrightをそれぞれ「演説」「自由」「版権」(現在は著作権・知的所有権)と造語しました。「社会」も彼の創作と言われています1

しかし、諭吉のすごさは、翻訳した上でそれをメディアを通して大衆に浸透させたこと。
諭吉さんは「時事新報」という自前の新聞社を持ち、コラムニストとしての顔もありましたが、これは自分の金儲けのためではなく、当時の最新思想を伝え日本人の民度を上げるためのもの。
金儲けに全集中したら、商才は俺をしのぐと三菱の岩崎弥太郎に言わしめた商売センスがありましたが2、諭吉さん、金だ富だに興味なし。すべては「日本人を世界に誇る立派な国民にするため」でした。

中国も、経済発展で生活レベルが上がれば中国人のモラルが上がると思っていた人も多いですが、私は現地での経験も含めて否定的でした。なぜなら…

筆者
筆者

だって、(今の)中国には福沢諭吉がいないもん

西洋からの外来語は、先人の努力によってどんどん「日本語化」され消滅していきましたが、その中で生き残った意外な言葉があります。

それが「サボる」

元々フランス語の「サボタージュ」から来ており、明治時代初期に伝わりました。明治中期には「サボ」になり、正岡子規が「サボする」という表現を夏目漱石への書簡で使っています。

それが現在の「サボる」に変化したのが1920年代の大正時代とされ、国会図書館のデータベースによると書物に出てきた、つまり文字として残る史上初の「サボる」は大正11年(1922)。なんと!今年は「サボる」誕生100周年(推定)なのです(笑

「サボる」の漢語的表現に「怠業」という言葉もありますが、「今日学校サボろうぜ」を「今日学校怠業しようぜ」となると、なんだかちょっと違うんですよね。「サボる」のは気軽な気持ちだからこそ、カタカナがいいと(笑)
「サボる」は、明治の先達が日本人のプライドを賭けて行った「外来語ジェノサイド」から、辛くも生き抜いた数少ない生存者なのです。

この先人の努力には感謝すべきなのですが、これが語学になると足かせになるのです。

そもそも、海外、特に発展途上国の人はなぜ英語を勉強するのか。国際化の流れとか、これからは英語の時代だとかなんとか綺麗事を並べる人もいますが、理由はもっと現実的です。

世界の抽象概念や最先端の言葉を自国語で解説できる程の語彙(単語)が、発展途上国の言葉には存在しません。自国語に翻訳しようとしても、それが出来るハイレベルなインテリがいません。海外には福沢諭吉も西周もいないのです。
仮にいたとしても、浸透するまで長い時間がかかります。そんなのは百年河清を待つがごとし、それなら知の蓄積が豊富かつ世界共通語の英語を勉強して、英語で最新の学問を学べばいい。全くもって合理的です。

実は、それと同じ状況なのが漫画・アニメの世界。
漫画・アニメ好き外国人、いわゆるオタクは想像以上に日本語がわかる人が多いのですが、彼らも最新の日本のサブカル事情をすぐにでも手に入れ、他の人との差別化を図りたい。でも、英語・スペイン語など主要語は別として(現在の週刊少年ジャンプは、日本語版発売と同時にアプリ(電子書籍)で英語・スペイン語版が出る)、自国語に翻訳されるまでマイナーな言語であるほどタイムラグがある…ならば!

日本語勉強してダイレクトに情報を手に入れてしまえ!

となるのです。
彼らの学習エネルギーは、

最新の漫画アニメをリアルタイムで見たい!日本語で何を言っているのか知りたい!

という熱意と願望。しかも、その熱意たるや半端ではなく、ドラゴンボールやワンピースなどを見て育った少年少女文化的価値観や宗教観など日本のより深い世界に入り、日本学の研究者になっていることも決して珍しいことではありません。
日本人の知らないところで、日本語は世界のオタクたちのラテン語になっているのです。

個人的に思うことは、漫画・アニメを世界一過小評価しているのは当の日本人…海外へ行くとこれをすごく痛感します。

閑話休題。

大学で学ぶような高等学問も、授業は自国語ではボキャブラリー不足で不可能なため、自国であっても英語で行うことがあります。
そもそも、政治や経済、科学などを自国語だけで語れるのはごく限られた言語しかありません。たとえば、大学の高等数学を自国語だけで講義出来るのは、英語、フランス語、ロシア語、日本語だけと言われています。

事実、「数学のノーベル賞」と言われるフィールズ賞の受賞者は、


アメリカ:14人

フランス:14人
ロシア(旧ソ連諸国含む):9人
イギリス:9人
日本:3人
ベルギー、ウクライナ、イタリア等:2人

Wikipediaより、2022年7月時点

と上記4ヶ国語スピーカーの独壇場です。
ロシアは意外だなと思う人がいると思いますが、ロマノフ朝時代から数学の天才鬼才(奇才)を数多く生む土壌を持つ数学大国です。日本では計算が強い、ITに強い=インド人というイメージですが、ヨーロッパ人がまず思いつくのがロシア人(他にポーランド、ウクライナ人。スラブ系は数字に強い模様)。まあ、ウォッカとキノコの誘惑にはかなわないみたいですが(笑)

大学に進学できるのは、英語の授業について行けるほどの英語力がある、一握りの人だけとなります。英語が話せない人は、そもそも知的レベルを向上させる資格すら得られない厳しい世界なのです。
そのため、英語教育を受けられ、大学の講義に耐えられる英語を身につけられる人は、お金持ちや政治家の子息などに限られます。貧困層にはまったくの無縁。よって貧困層から抜け出せない。

貧困層が今の状況から抜け出すには、英語を学んでハイレベルな教育を受けるしかない。だから、発展途上国の人たちは血眼になって英語を勉強しているという事情もあります。

日本も文明開化の初期には同じ事が起こりましたが、先哲たちが知恵と努力のおかげで「日本語化」し、それを学校で教えるという好循環で、最先端の用語を隅から隅まで行き渡らせることに成功しました。
新しい概念語ができると、すぐに偉い人が「日本語化」して啓蒙するため、日本人は世界最先端知識の吸収のために、血眼になって外国語を勉強する必要がないのです。
日本語って、そういう意味ですごく便利だったりします。

それは非常にありがたいのですが、外国語の勉強となると…先人もえらいことしてくれたなーと(笑)

一億総英語が話せるようになる?無理です!!

日本では近年、
「英語を話せる人材を育成しよう」

「一億総英語スピーカーに」

と声高に言われています。文部科学省もかなり力を入れています。が、数十年語学に携わってきた人間として、はっきり言います。

日本人を全員「英語上手」にするのは無理です!

そうするには、日本の文化と伝統を一度根っこからぶっ壊さないといけない!

日本人を「アメリカ人」にするくらいの労力と時間がかかる!

日本人というのは、よほど積極的な人でない限り、「今から5分以内に英語話さないと死刑」くび匕首あいくちを突き付けないと話す勇気がない民族性です。いくら文部科学省が旗を振っても、無理なものは無理。

英語を話せるようになろう!

これからは英語の時代だ!

と壊れたレコーダーのように繰り返すより、もっと根本の

「英語(外国語)を勉強する楽しさ」

を教えた方がよほど効果があると思うけど、学校英語でこりごりになった人はこう言うでしょう。

もう英語はいいんぐりっしゅ。

急がば回れ!こんな英語の本を読むと面白いですよ!

  1. 最初は「人間交際」と訳したものの浸透せず。しかし、文面で「社会」を使った第一号。
  2. 実際、弥太郎に金儲け話を誘われているが、二つ返事で断っている。
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コメント

  1. 自分が言った外国はフランス(姉と義兄がパリに住んでいるので)1回、ロシア3回と全て非英語圏ばかりですが、ツアーじゃない個人手配で行くのは面白かったです。特に1週間滞在中、日本人とほぼ無縁(パリの時も姉と義兄以外日本人は皆無)の生活をしていると、現地のテレビのバラエティ番組で笑える様になれます(「こいつこんな事言ってら」と感覚でわかる様になれます)よ。個人的に一番慣れ親しめたのがロシアですね。特に学校で勉強しなかったのもかかわらずある程度ロシア語は話せます。

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