ルンペンという言葉を知っているでしょうか。
ルンペンとはドイツ語でボロ布という意味で、それが日本に入り、転じて「浮浪者」「失業者」という意味になりました。概してホームレスという意味と思って結構です。
破れた帽子をかぶり、穴が開いた服を着ている人、それがルンペンの標準イメージです。
元々は、朝日新聞に連載されていた小説『街の浮浪者』の”浮浪者”に、作者の下村千秋が”ルンペン”とルビを振ったところ、それが流行語になったのが始まりだそうです。
昭和ひと桁の頃に流行した用語で、
当時の新語・流行語辞典にも掲載されています。
このルンペン、すでに死語化しているものの、私のようなアラフィフと言われても文句が言えなくなってきた昭和世代の中では、ほのかなノスタルジーを誘うような語句でもあります。
小学生の頃、大阪のあいりん地区にたむろしていた身なりがよろしくない日雇労働者を、「ルンペン」と指さしては親に怒られたものです。
また、別のクラスながら小学校に「ルンペン」というあだ名の男子がいたことを記憶しています。彼が特別身なりが悪いとか、風采が上がらないとかではなく、なんでそんな呼び名になったのかは謎ですが、現在なら大問題でしょこんなあだ名。
『ルンペン節』
昭和史の本を読んでいると、当時のヒット曲にこんな歌が出てきました。
『ルンペン節』(唄:徳山璉)という、タイトルからして強烈なインパクトがありますが、歌詞はさらに強烈です。
青い空から紙幣(さつ)の束が降って とろり昼寝の頬ぺたをたたく
『ルンペン節』の歌詞
五両十両百両に千両 費い切れずに目がさめた
アーハッハッハ アッハッハ
スッカラカンの 空財布 でもルンペンのんきだね
酔った酔ったよ 五勺の酒で 酔った目で見りゃスベタ*1も美人
バット*2一本ふたつに折って わけて喫うのもおつなもの
アーハッハッハ アッハッハ
スッカラカンの 空財布 でもルンペンのんきだね
プロ*3の天国木賃ホテル*4 抱いて寝てみり膝っこも可愛い
柏蒲団に時雨を聴けば 死んだ女房が 夢に来た
アーハッハッハ アッハッハ
スッカラカンの 空財布 でもルンペンのんきだね
金がないとてくよくよするな 金があっても 白髪ははえる
お金持ちでもお墓はひとつ 泣くも笑うも 五十年
アーハッハッハ アッハッハ
スッカラカンの 空財布 でもルンペンのんきだね
※用語説明
*1スベタ:容姿の醜い女。つまりブスということ。元々はカルタ用語
*2バット:「ゴールデンバット」という煙草の銘柄。1909年に発売され、現在も販売中
*3プロ:プロレタリアート(労働者階級)の略。プロフェッショナルのことではない
*4木賃ホテル:貧乏人が泊まる下級旅館。木賃宿。大阪でいう「ドヤ」
テレビの懐メロでは、こんな歌詞の歌は放送できないでしょうね(笑
聞いてみるとわかりますが、この歌は底抜けに明るい、とにかく明るい。植木等のスーダラ節や米米CLUBのナンセンス歌に通じる明るさと、(良い意味の)くだらなさがあります。
しかし、サビの「スッカラカンの空財布 でもルンペンのんきだね」を歌ってみると、ドヨンとした暗い気分を吹き飛ばすようなエネルギーがあふれ、不思議な高揚感が湧き上がってきます。
歌にはエネルギーがあるといいますが、歌詞はふざけた調子ながらこれほどエネルギーを与えてくれる歌はなかなかない、知る人ぞ知る隠れた名曲なのかもしれません。
この歌の作詞は柳水巴、作曲は松平信博なのですが、柳水巴は作詞家西条八十の変名です。
西条八十と言えば、古くは「踊り踊るや~ちょいと東京音頭、ヨイヨイ」の『東京音頭』や、異国情緒あふれる歌詞の『蘇州夜曲』、戦後の村田英雄の『王将』から、各学校の校歌まで幅広く詞を作った、日本史上最強クラスの大作詞家。作詞界の神様なだけに、そんな人がこんな破天荒な詞を作っていたことに、良い意味でショックを受けます。
そんな『ルンペン節』が出た昭和6年(1931)の日本はどんな状況だったのでしょうか?
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