築約110年!日本一のレトロ学生寮、京大吉田寮に潜入

京大吉田寮近代建築これくしょん
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百年前のハイテクトイレ

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吉田寮のトイレは、寮の端に一つ、共同のものがあります。
排泄物は穢(けがれ)という考えもあってか、日本のトイレは伝統的に家の外に置かれることが多いです。

旧制姫路高校白陵寮地図

旧制高校の寮の構造を見ていても、共同便所は屋外に置かれることが多く、建物内に置かれるようになったのは鉄筋コンクリート製になってから。上の図は旧制姫路高等学校の地図で、赤枠内が寮なのですが、黄色で丸をした便所は外に設置されています。
そういう意味では、吉田寮は旧制高校・大学寮の基本構造を残す最後の一つなのですが、ここに今に通じるハイテク・・・・ハイテクが使われていたこと、ご存知の方はいるでしょうか。

なおここからは、トイレの話に入ります。食事中の方は食事をちゃんと消化してからお読み下さい(笑

便所の外観はごく普通の建物なのですが、少し違っていたのは、屋根の上にあった四角いスペースがあったこと。何かと聞くと換気口だったのですが、これがキーとなります。
昔のトイレは、ごく例外を除いて汲み取り式でした。
よって便所中に臭気が漂い、水洗便所が当たり前だと思っている今の人なら、あの臭気は到底耐えられまい。生理現象なので行かざるを得ないですが、トラウマになりかねない次元です。
現在の吉田寮のトイレは水洗ですが、昔は当然汲み取り式でした。その臭気に対して、昔の人はちゃんと対策を取っていたのです。

京大吉田寮トイレ
吉田寮トイレの仕組みはこの通り。

屋根の上の通気口により、自然風が常に通るようにします。
すると屋内の気圧がさがり、臭気が上に逃げ通気口を通して排出される。簡単にいうとこんなシステムなんだそうです。
最近、電気などを使わない「エコ換気」が建築のトレンドなんだそうですが、

「『エコ換気』なんて最近開発されたことのように聞こえるけど、モデルは100年前からあったんですよ、その証拠が吉田寮の便所です!」

と建築士のガイドさん。
「これを見た時は、一建築家として感動しました」
と興奮気味に語っていたので、よほどのものなのでしょう。

そんな話を聞いていて、あることを思い出しました。
母方の祖母の家のトイレは汲み取り式だったのですが、臭かったという記憶が全くなかったこと。当時の私の実家も汲み取り式だったのですが、それはもう臭い臭い(笑)
肉を食わないベジタリアンのトイレ、例えば禅宗のお寺のトイレは臭くないそうですが、祖母は別にベジタリアンでも何でもない。
同じ汲み取り式なのに何故こうも違うのか。幼な心で不思議に思ったものです。
ただ、祖母の家のトイレに一つ違うところがありました。それはトイレに窓があったかどうか。祖母の家の便所は、今考えれば、ものすごく高い位置に窓があったのです。それも一ヶ所ではなく数ヶ所でした。そしてその窓は常に開放され、冬はガクガク震えながら用を足した記憶があります。
100年前のハイテクの話を聞き、ふと私の頭に残る七不思議を思い出しました。
祖母の家は明治時代に建てられたというわけではなかったですが、もしかして習慣的に「エコ換気」をしていたのではないかと。

それにしても、気圧や通気はいかにも「科学的」な話ではありますが、それを習慣的・感覚的に気づいていた先人の知識・知恵は素晴らしい。

しかしながら、トイレのハイテクは誰もマークしなかったか、私がググった限りそれに言及したサイトはなし。それ以前に便所の写真すらありませんでした。
やはりこの話は、建築学の専門家だからこそ解説できる、吉田寮のマル秘スポットなのでしょう。

朗報。吉田寮、実は…

こんなボロ・・・もとい昭和をぶっ超えた大正レトロな吉田寮、学生以外の一般人はおいそれと近寄れない独特のオーラがあります。

入り口に強力なバリア、いや今はエヴァンゲリオン風にATフィールドと呼べばいいのか、が張られているようで、それを打ち破らないと中には入れない的な…気の弱い人はATフィールドによって弾き飛ばされます。

しかしこの吉田寮。

泊まれます。

重要なことなので、もう一度言います。

一般客宿泊可です。

なんと、学生以外の人も泊まれるそうなのです。

京都でお金もなく橋の下で野宿しようとしたところ、

「お金なければここに泊まれ」

と見知らぬ地元民(?)に紹介された人もおり、穴場中の穴場として知る人ぞ知る存在です。

ただし、今までの流れでわかるとおり、部外者の宿泊は大部屋の雑魚寝は当然、「布団と枕はついていますよ」という程度で、それ以外は何もついていない。写真撮影も禁止なんだそうです。そして何より、環境は今までの流れのとおりです。

Twitterで詳しい人に話を聞くと、予約は不要、飛び込みでも十分泊まれるとのこと。空いていない時は宿泊不可ですが、それは行ってみてのお楽しみなんだそうです。

でも、宿泊料はお高いんでしょ?

(どこかのテレフォンショッピング風)

みなさん気になる料金は、なななんと! 一泊200円!!

…だったのですが、今は「任意」となったそうです。つまり気合と根性と図太い神経があればタダで…いや、それはお願いだからやめて下さい。

しかしよく考えると、寮費自体は400円/月。それに比べたら200円/泊は月額料金の半額、めっちゃ「高い」ですやん(笑)

京大名物「総長カレー」生みの親にして、俳人総長として京大生に親しまれた尾池和夫元総長は、手記を見ると総長を辞めた後だと思いますが、学生に招待され寮内を見学し、寮生と一緒に鍋をつついたことがあったそうです。その際、

大寒や未来はここに吉田寮 

という句を残しました。

私も総長に負けず(?)、吉田寮で一句。

春寒の壊れし窓や吉田寮

寮生のこたつから出ぬ浅き春

誰や、才能ナシなんて言うたのは。せめて凡人にしてくれ。

吉田寮の危機

建築学上非常に貴重で、かつ日本に残る最古にして最後の自治学生寮の一つとして、吉田寮は天然記念物級の存在感を醸し出しています。
これだけ有名になると、ボロいとは言え立場は安泰なのではないか。ところが現実は逆。非常に重大な危機に直面しています。

結論から言うと、大学が寮生の追い出しにかかっているのです。
大学は何度も入寮禁止のお触れを出してはきたものの、吉田寮は寮生を募集し続けました。
そして大学はついに、今年(2018年)度から入寮を禁止、9月までに全員退寮せよ、9月以降の入居は不法占拠とみなすと通知してきました。

そして2019年4月、ついに大学が寮生20人を相手に吉田寮旧棟と食堂の明け渡しを求めて、京都地裁に提訴する事態に。大学が学生を訴えるという話は、京大はもちろん日本の大学史の中でもかなりの珍なケースだと思います。

今後の動きに要注目です。

結論:吉田寮に住みたいか?

ここまで吉田寮を見てきましたが、いくら部外者が絶賛しても、本音かどうかはこの質問でわかります。

ここに住みたい?

私は即答します。

住みたい!!

めっちゃ住みたい!!

入試の下見に偶然吉田寮を見て、ここに絶対に住むんだ!と志を強固にした人もいれば、吉田寮に入りたいがために京大に入ったという人もいるそうですが、いざ現物を見てみるとその気持ちがよく理解できました。
なにせ、私本人がそう思いましたから。
いまさら京大に入るのは、たとえ地球の自転が止まっても不可能ですが、もしも中学生くらいから人生やり直せるならば、ここに入寮したいがために京大を目指すのも悪くない。そんな無駄なことを思った京大吉田寮の春の陽気な日でした。

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