全国女性街ガイドを訪ねて |おいらんだ国酔夢譚番外編|

全国女性街ガイドブログエッセイ
注意当記事は、2010年に前々ブログで書いた記事を改訂したものにつき、情報が古い場合があるのでご注意下さい。
気軽なエッセイと思って読んでいただければ幸いです。

『全国女性街ガイド』という、題名の通りの本があったりします。
まだ赤線があった頃の昭和30年(1955)、渡辺寛という謎の人物が全国の赤線を渡り歩いて書いた本とされています。いわば、これは”日本の夜の歩き方”のような、何も知らない女性が聞いたら激怒しそうな本かもしれない。文字色をピンクにした自体やらしいって?(笑
赤線がなくなって60余年、当時はエロ満載だった「夜の歩き方」も当時の風俗習慣を知る貴重な史料なのです。

この本は、遊里跡探索者にとっては立派な史料となっているため、諭吉2枚3枚は即金で積んでも欲しい本ではあるものの、こういう本に限ってなかなかGETできないのが世の常。

それは何故か?
まずは、現存している現物が非常に少ないということ。売春防止法が施行され赤線が建前上では廃止になった昭和33年(1958)以降はある意味無用の長物。チリ紙交換よろしく廃棄され、この世からおなくなりになったと推定されます。

また、内容がマニアックなため、発行部数もそんなに多くなかったと思われます。
それゆえに古本屋業界でも「幻の書」扱いになっており、古本業界の人に聞いてみたところ、5年か10年に1冊出回るか出回らないか、市場価格は諭吉1枚2枚じゃすまないだろうと。
一度、これがAmazonに出たことがあります。その時のお値段5万円を下らず、欲しいことは欲しいけれども、さすがにそこまでは出せません。
今でこそ、カストリ書房さんが復刻版を発行してくれて手に入れやすくなったのですが、10年前はまさに「幻の書」そのものでした。

そしてこの本が「幻の書」と化してる最大の理由はというと。
日本で発行された本は、国立国会図書館が必ず1部買い取って保管するのが決まりになっています。よって、日本で発行された本に「販売数ゼロ」「売上ゼロ」は自費出版も含めて建前上は存在しません、理屈上は。
それなら、「幻の書」は国会図書館に残ってる…と思いきや、事もあろうにその国会図書館からも行方不明になってしまったそうで…。
こら!失くすな!!ちゃんと保管しとかんかい、国会図書館!!!(怒
今さら怒っても仕方がないのですが、国会図書館にもないということは、こりゃ生きてる間に拝むこと出来るんかいな?と半分どころか99.9%諦めていました。

が!

「捨てる神あれば拾う神あり」とはよく言ったもので、日本中の図書館の蔵書をを根気良く探していると、見つけてしまいました所蔵している図書館を。
その日本で唯一本を保存している図書館とは…あの東京大学附属図書館でした。さすがは東大、関西人なので京大の肩を全力で持つ方だけど、今だけはラブリー東大(笑
東大といっても、図書館は総合図書館の他にも各学部に専門図書館があるのですが、『全国女性街ガイド』があったのは遊里史と何の関係もない農学部図書館というのがまた奇縁。世の中おもしろいものです。
で、思い立ったが吉日とばかりに図書館に電話して問い合わせてみたところ。

何と!

東大図書館にある「全国女性街ガイド」は、某所の図書館にあるものをコピーしたもの。原本はまだそこにあるんじゃないですか?とのこと。東大にあるのはコピーとは言え、こりゃええこと聞いた!
こうなると、私の行動力は光速となります。さっそくその図書館に所蔵を確認したところ、原本があり閲覧も可能なことを確認。
それやったら早速コピー+原本を拝みにそこへ行ってやろーやないかい!と、その日に夜行バスの切符を予約し、有給休暇を取り目的地へ向かっていました。
こういう時の行動力、我ながらすごい。少なくても通常の3倍は早い(笑)

夜行バスに揺られて向かったのは…

山梨県立図書館

山梨県立図書館です。
わざわざ(?)大阪から来たことを告げると、かなり驚いた顔でこんなところまでようこそとマダム館員が笑顔で歓迎。大阪府立図書館でここまで笑顔で歓迎されたことはない(笑
私の目的はマダムの笑顔を見に来たわけではない、『全国女性街ガイド』の原本のみ!
要件を告げ、いつもは書庫の奥に長い眠りについている本を出してもらうことにしました。

そして…

全国女性街ガイド

ご対面~~~~♪♪
こ、これは…色あせたカラーのまことに色遣いが怪しい表紙、60年の年月を経た黄ばんだ紙面…。これは紛れもなく本物の『全国女性街ガイド』!!
公共の図書館では日本、いやもしかして世界で唯一(?)残っている原本とご対面できました。

興味がない人にとっては、こんなものタダの60年前のカビが生えた本ではありますが、私にとっちゃとんだお宝。長年探し求めていた遺跡をついに発見した考古学者の気分です。
とは言え、もっと大きい雑誌サイズの大きさかと勝手に想像していたのですが、意外にも新書サイズの大きさ。と妙なところで感動しつつも、中身の内容をパラパラと流し読みしてから、時間との戦いのため早速コピー。
著作権法の都合で全ページの半分しかコピーができない決まりにつき、まずは半分だけコピー。

謎のライター、渡辺寛

ここで、さらにこの本を謎としている理由に、作者である渡辺寛氏の存在が挙げられます。
この人、風俗ライターのような怪しい人物でもないようで、調べてみたら何と第一回芥川賞の候補(予選)にもなったまっとうな(?)作家、長い間新聞記者でもあったらしい。
芥川賞に記載の経歴には、

大正2年/1913年5月18日~
東京・下谷生まれ。アテネ・フランセで学び、昭和10年/1935年に日本浪曼派に参加。長きにわたり新聞記者生活を送り、日本経済新聞などに在籍した。

と書かれていますが、「全国女性街ガイド」の巻末には下記のように書かれています。

「渡辺寛氏は労働問題の新聞記者のベテランで、また大きな喫茶店のマスターであり、生活に全く困らないことも手伝って日本でも有数の旅行家でもある。
本書は、同氏が仕事や趣味や「こけし」の研究のため廿年間余も旅から旅へと歩きまわっているうちに、自然と積み重ねられた隠れたる研究の成果である。絶後であるかどうかは知らないが、恐らく、実際の体験によった本書の如きは空前の事実であり、また、読者のみなさんにとっても便利なものであることは事実であろう」

と紹介されているけれども、ぶっちゃけこんな紹介じゃちょっと怪しい(笑
しかし、ある雑誌に投稿した、赤線を経済学の観点から見た「赤線区域の経済白書」などを見ると観点が鋭い上に、肩書きは「新東京通信編集長」とあります。もっとも、この肩書も怪しい(笑
そして、ライフワークであった「女性街探索」に専念するために日本経済新聞社を辞め、仕事で全国を回ることができる化粧品のセールスマンに転身。取り扱う商品が女性ものということもあり、業務で女性街に入りこみ、その経験と取材の結晶が『全国女性街ガイド』になったとかなんとか。

この渡辺寛氏は他にも色々本を書いているそうですが、現在生死不明のようで消息も全くわからず。『全国女性街ガイド』の著作権も宙ぶらりん…だったのですが、上述のとおり近年カストリ書房さんが著作権の関係をクリアして復刻版を刊行。「幻の書」ではなくなりました。

閑話休題。
この『全国女性街ガイド』、さすがに60年も経っているせいか、手荒に扱うと拍子にビリリと破れてまいそうな非常に華奢きゃしゃな本。まるでか弱い女の子のようだ(笑
ここは私勝手認定公共機関に残る世界唯一の原本、興奮をよそに丁寧に扱わせていただきました。

コピー自体は、他の遊里史関連の本も含めて小一時間で完了。たかが1時間弱のコピーで大阪からバスに乗って山梨県まで来るなんて、興味がない人間から見るとアホ同然。ですが、アホで結構メリケン粉、趣味というものはこんなんでいいんです。この時の私の目は仕事の時の数十倍は輝き、数十倍イケメンに見えたに違いない(笑

そして、大量のコピー紙をかばんに入れて、返す刀で向かったのは…

NEXT⇒次なる『全国女性街ガイド』の地へ!


さて、某県で『全国女性街ガイド』を心行くまでコピーした後、返す刀で向かった先は…。

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