に、日本だって金が採れるもん!
1月24日は「ゴールドラッシュの日」だそうです。
ゴールドラッシュだヒャッハ~~!
なんて海の向こうでのこと、日本には縁ないや…と完全に他人事なことでしょう。
昔は日本でも金が採れたのではありますが、今はね…と全く興味のベクトルが向いていないことでしょう。
しかし、日本では今も金が採れているのです。
日本での金脈の歴史
日本で金が産出されたという最古の記録は、奈良時代にまでさかのぼります。
天平21年(749)に、現在の宮城県にあった陸奥国から朝廷へ黄金900両(約13kg)が献上されたというものでした。
少し時代が下った平安時代後期には、今の気仙沼一帯で金山が多数あったという記録があるのですが、当時東北を治めていた奥州藤原氏は朝廷だけでなく、今の中国大陸に金を輸出していた…と大昔の世界ふしぎ発見で言ってました。
「黄金の国ジパング」
これは誰しも聞いたことがあるはずです。
マルコ=ポーロが元からの帰りの港1で聞いたというこの伝説は、マルコの手によって文字となり書物となり、数知れぬ冒険家がヨーロッパの港からジパングを目指して出航しました。その中で、無事帰って来れた者はほんのわずかでした。
海は自然との戦い。低気圧や台風などによる沈没もありますが、ほとんどは「病死」だと言われています。
戦争だって、20世紀まではドンパチで亡くなった戦死者より、戦場での病死(戦病死)の方が多かったですし2。
旅行は「トラベル(Travel)」ですが、よく「トラベル」は「トラブル(Trouble)」と言います。語源は同じようでそれぞれ違うのですが(昔のフランス語というのは同じ)、昔の「トラベル」に「トラブル」(苦労、不幸な出来事)はつきもの。その「トラブル」のほとんどは病気です。
閑話休題。
海を隔てた大陸にまで黄金伝説が伝わっていたジパングは、十中八九日本のこととされていますが、当時はおそらく東北で金が大量に採れ、その事実に尾ひれがついて「黄金の国ジパング」となったのでしょう。
日本の金山と言えば、佐渡島の金山がすぐに連想される人が多いと思います。かくいう私もそうです。佐渡の金山は、関が原の戦いの余波冷めやらぬ時代、山師によって開山されたという言い伝えがあります。あくまで言い伝えにしても、江戸時代初期には既に江戸幕府がツバをつけ、直轄の奉行所が置かれていました。
その後の佐渡金山は世間では知られていませんが、明治時代に民間に払い下げられた後も操業を続け、形だけなら平成元年まで操業していました。個人的には、こちらの方に驚きです。佐渡金山なんて何百年前の話かと思っていたので。
佐渡金山は、江戸バブルに始まり、昭和バブルで幕を閉じた。そう書くと時代を超えた大河ドラマにすら聞こえます。
国内には他にも金鉱は各地にあったものの、金=佐渡というように、佐渡が最大の産出量を誇っていました。
このように、佐渡が歴代1位を誇って…あれ?まだ上がいる。今日は、意外と知られていない(?)日本の金山の話を。
金大国薩摩の金山、菱刈
九州の南の端、鹿児島県。そこはかつて薩摩国と呼ばれていました。
薩摩と金のつながりは、鎌倉時代とも江戸時代とも言われています。鹿児島県には金鉱がいくつかあり、埋蔵量はわずかながら江戸時代を通して採掘が行われました。
明治時代にも串木野金山などで本格的な採掘が始まりますが、どうも最近掘り尽くしてしまったようで、平成9年(1997)に惜しくも閉山。その跡は現在、『薩摩金山蔵』というテーマパーク兼酒の地下蔵になっています。
昭和60年(1985)、鹿児島の北部で新しい金鉱が稼働しました。
その名は菱刈鉱山。
菱刈町は江戸時代から金が産出されていたそうですが、昭和に入り科学的な調査のメスが入ったところ、日本有数の金鉱脈であることが判明。
稼働後も新たな金脈が発見されるなど、鹿児島は隠れたゴールドラッシュの地としてホットな注目を浴びています。
菱刈鉱山の何がすごいのか
菱刈鉱山は、2つの面から注目されています。
一つは産出量。
(菱刈金山HPより)
菱刈鉱山からは、2017年3月末時点で産出量230.2トン。ランキングを見てわかるとおり、日本の名のある先輩鉱山たちをぶち抜いてぶっちぎりの一位。
なにがすごいかというと、あの教科書にも載っている佐渡金山が数百年かけて採掘した量を、たった32年で抜いており、ちょっとは手加減しろよ的なぶっちぎり過ぎの感もします。
これだけでも、「我々の知らない日本史」の1ページに飾られる快挙でしょう。我々はリアルタイムに生きているので、実感がほとんどないですけどね。
(外務省HPより)
世界レベルでみれば菱刈の230トンなど微々たるものですが、日本でもこれだけ金が採れていること自体、ほとんど耳に入ったことがないと思います。
それにしても、今の金産出量1位は中国なのねん。何かと数値を盛りまくり、真実の数字が習近平ですら知らないミステリアス中国ですが、流通量がコントロールされている金は、さすがに数字を大盛りするわけにはいかないと思います。
我々の世代は、世界の金鉱と言えば南アフリカ共和国でした。南アフリカとくれば金にダイヤモンドにアウストラロピテクスと社会の授業で習った記憶があるのですが、それは今や昔のようです。まあ、それでも8位ですけどね。
もう一つのすごいところは、金の含有率。
金山といっても、すべての鉱山で金が平等に、ザッックザク採れるわけではありません。金は岩石に含まれる金の含有率も重要なのですが、この含有率の世界平均は鉱石1トンあたり約3グラム。ほんの微々たるものです。
菱刈鉱山はどうなのか。
同じ1トンの鉱石に平均30~40グラムの金が含まれており、世界平均の10倍です。
地質学や冶金学(?)には詳しくないですが、平均をはるかに上回っているということは、菱刈金鉱が質の良い金鉱なのだということなのでしょう。
じゃあ、そこまでの金山、日本で唯一絶賛稼働中の金鉱脈なのに、何故あまり知られていないのか。
一つは、既に住友金属鉱山が押さえていることでしょうね。
鉱脈あたりの土地はすべて押さえているので、個人がザルやスコップ片手に来てくれても困る、という事情もあるでしょう。
かつて存在した住友金属鉱山のHPには、私有地につき立入禁止とわざわざ赤字で書かれています。「無断で金掘ったらタダじゃ済ませへんぞ!」という会社の心意気が、赤字を通して身体の芯まで伝わってきました。
「黄金の国ジパング」と呼ばれたのは昔の話ですが、現代は戦前に比べたらはるかに、みんな平等に豊かになったし、不景気だとため息をついても、世界を見ればどこがやねんと怒られるほど、恵まれています。
金こそ取れる量は少ないものの、ある意味、黄金の国ジパングは現代で達成したのかもしれませんね。